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16世紀、人々は宝や新天地を夢見て大海原を渡った。
しかして成功者の影に、夢破れ海の底に沈む者は多くあった。
明るく照らされた海上から放逐され、薄暗く寂しい海の底へ。
歴史から名を消した遺産と人々の思念は、深海で同一体シノニムへと収束した。
時は進み───人々の手は仄暗い海の底へと伸びた。
怨念と超常現象渦巻く異常海域───狂乱深域Area-Tritonへと。
深海は、未だ暗いままだ。
Area-Triton調査記録
狂乱深域
序章 深き海の片身
やっちまった、やっちまった。潮風がピリつく海岸沿いのトタン小屋で、辺りで響き渡るがなり声にビクビクと肩を震わせながら、俺は静かに自分の行為と性根を悔いていた。どうすれば良かったか?やらなければ良かった。そんな非生産的な自問自答しかできない今に苛立ちを覚え、必死にそれ以外の事を考えるも、頭に思い浮かぶのは数刻前の自分がとった愚かな行動以外無かった。
始まりは若気の至りだった。祖父の故郷で伝わっていた奇妙な伝承───深き海におわす神様が、気まぐれに不思議な物を生み出し、大海原に放っているという───を聞かされて育った俺は、海の底にぼんやりとした期待を抱いていた。そんな少年がやがて立派な大学生となり、海洋研究者の卵となった。ここまでの情報なら美談とは言わずとも、中々良い学生さんじゃないかと膝を打っていた事だろう。しかし、俺は好奇心に満ち溢れた悪戯っ子であった────国立の深海調査機関"OCEAN"の調査船に無断で乗り込んだのだ。黒船に木船で乗り込もうとした吉田松陰よりかはまだマシな侵入方法ではあったのだが、結局それまでだった。とある部屋に張り巡らされた赤外線センサに引っかかり、ブザー音と足音が一斉に船内に鳴り響くのを耳にした俺は慌てて船外へと逃げ出し、廃棄されたコンテナの群れの中に佇むトタン小屋を発見し────そして現在に至る。
気を狙ってこの小屋を抜けるか?駄目だ、声が小さくなる気がしない。それに、こんな場所いつ見つかってもおかしくない。"鈴"は?駄目だ、この状況ではなんの役にも立たない。まるで底引き網に引っかかった魚だ、オマケにその網の隙間は限りなく小さいときた。ああ、駄目だ、こんな事を考えていては。少しでも有益な事を捻り出せ!そうだ、穴を掘って逃げよう!もうそれしかない!合理的に考えるな、幸い床は砂だ!ゴム手袋を身につけ、四つん這いになり、一心不乱に砂を掘る、掘る、掘る、掘る、掘─────
「おいおい、なんの騒ぎ────」
……突如盛り上がった地面に顎を強打され、俺の意識は飛んだ。
目を開けると、そこはトタン小屋……ではなく、ボトルクレートとタオル数枚でできた簡素なベッドの上だった。OCEANに捕まったか!?と慌てて立ち上がるも、船内特有の気分の悪い揺れは無かった。少々空気が青臭いのはむず痒かったが、少なくともあの船の中では無いらしい。安堵して視界を覆っていたカーテンを開けようとすると、後ろから
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