タロ・セレクタ
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財布がサトイモになった。
結果、命の危機に瀕している。

 

 

 

茶色のコンバースが掠れた音を鳴らす。過負荷。頭蓋の裏、欠乏した酸素が痛みとなって響き渡る。アスファルトを抜けた先、ひび割れた石の階段。その前に設置された落下防止のバーを片手で掴み、強引に方向を転換する。左手を振る肩の筋肉が張っている。狭苦しい家屋達が足早に視界の後ろへ流れていく。引っ張られている右手のせいでバランスを崩しそうだが、んな事言っている暇は無い。
 

「急いで。このままだと追いつかれる」

 
右手を引っ張る少女から喝が飛んできた。なら一回その手を放してくれ、なんて言えもせずに必死に階段を駆け下りる。彼女曰く、姿を眩ませられるのはもってあと40秒程。何を以て"姿を眩ませている"のかは見当も付かない。だが、距離を稼がないとブチ殺される。それだけは体で理解できている。僕達を追っている男は、確かに銃を持っていた。

雑草を踏み潰して道路を通過する。公園を足跡でぶった斬り、路地裏へと入り込む。背後。微かな気配。きっと気の所為だと言い聞かせながら全速力で二人、駆ける。背後に広がる現実の濁流に押し流される様に。僕のポッケに突っ込まれたままのサトイモは、相変わらず土に塗れて沈黙している。

本当に何でこんな事になったんだ。全ての元凶は3時間程前、1つのサトイモまで遡る。

 
現実改変。後から聞いた、僕の力だ。現実を思うままに操り、改変する能力。
只、どうやら僕の場合それは絶対的にサトイモだった。
 

 

何?"絶対的にサトイモだった"って、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タロ・セレクタ

 

 

.01

 

財布がサトイモになった。

 

 
正直な所意味がわからない。僕は今、昼飯を調達しに途方12分のスーパーへ赴いて、蔓延的な希死念慮に胃を満たしながら帰ってきた、その直後だ。え本当にわかんない怖いんだけど。

2個程のサトイモが狭苦しい居間を転がる。そして僕は只、それを呆然と眺める事しか出来ない。目の前の現実を処理するのに手間取る感覚。かつて母が乗った自転車が眼の前でトラックの車体に消えた当時のものと、この感覚はどこか似ている。今確定している事。買って2週間と経っていない僕の財布は、どうやらサトイモに生まれ変わる事を強いられた様だった。
 

「人生詰んだくね?」

 
率直な感想である。

財布の中には札は勿論、ありとあらゆるカードが入っている。つい先日6時間程待ってようやく受け取れたマイナンバーカードだって入っているんだ。いや財布が突然サトイモになって紛失するなんざ思うわけもないだろ。本当に何なんだよ、という行き場の無い憤りを募らせた所で、僕の財布だったサトイモが床にふてぶてしく居座っているのは変わらないのである。

ひとまずこれからの事はともかくとして、原因を洗い出そう。そう思って理由と思える理由を探る事にした。とは言っても「財布がサトイモになった」事の原因なんて、知恵袋を漁ってもTwitterで呟いても解明できる筈もない。困り果てた後、適当なメモ帳に思い付いた要因を書き殴ってみる。

 

『普通に怪奇現象』
『疲労が溜まり過ぎてどっかのタイミングからサトイモが財布に見えていた』
『何なら今現在僕の目がおかしくなっている』
『何かしらの化学反応で奇跡が起きた』
『僕が突然超能力を手にした』

 

……。

 

:

 

座布団がサトイモになった。

 

マジかよ。本当に、マジかよ。まさかヤケクソで書いた一番最後の仮説が当たってたなんて思いもしなかった。只何と無く僕の目の前に置いてあった座布団がサトイモに変わるイメージをしてみた所、一瞬で僕が愛用していた座布団は大量のサトイモへと置き換わったのである。再度言うが意味がわからない。僕の座布団返せよ。

深く息を吐く。あまりにも現実が飲み込めなさすぎて逆に冷静になってきたかもしれん。確かに、今日はスーパーで珍しくサトイモが売られていた。もう6月にも差し掛かったのに誰にも買われず、只その芽を伸ばしたまま雑に放置されていたサトイモがやけに寂しく見えて、「僕もあのサトイモみてぇになんのかな」なんて無駄な感受性を発揮させながらサトイモを頭の片隅に刻んで帰ったような自覚はある。

 
あぁそうだ。そこから帰った後、かつて母親の得意料理が芋煮だった事を連想したのが戦犯だった。僕は母親といつも一緒に買ってきた芋を洗っていた。ちょうどその芋の感触を思い出して目を向けた時に手の中に収まっていたのが─────他ならぬ僕の財布だったと思われる。

最悪の整合性が取れてしまった。床に転がりまくるサトイモを横目に、一人頭を抱える。

 

友よ。どうやら僕の人生の終焉は他ならぬサトイモによって齎されたらしい。というか相談した所で誰にも信じて貰えない事は容易に想像できてしまうのが途轍もなく終わっているだろ。これが僕の過失になるのあまりにもクソすぎないかマジで。

 

蛇口を捻り、水を一杯飲む。
落ち着け。そんな事を言ってる場合では無い。

 

だが、兎にも角にも財布及び金銭面を支えるカードの全てがサトイモになって失われたことは紛れも無い事実なのだ。身分証も何も無くなった今、一般的な大学一年生の見解として普通に色々と詰んでいる状況ではある。

しかし。個人的にはこの力、"能力"と書いて"チカラ"と呼びたくなる奴の方に脳みそが釘付けになっているのが現状だ。いや、というよりは頭が追いついていないと言うのが正解か。状況を整理。要は僕が座布団を頭の中でサトイモに変えたら、それが現実に反映されて座布団はサトイモと化した訳だ。つまりこの現象を僕の能力と仮定すると、この能力は「頭の中で起きた事象を現実にフィードバックする能力」だと推測できる。

つまり、だ。
これ、好きな物を好き勝手生み出したり、作り変えることが可能なのではないか!?万札とか増やし放題じゃん、いや犯罪だけど。他にもパソコンとか何もかも生産できれば全て解決できるポテンシャルを秘めているのかもしれない、のか。……そんな事が罷り通るのか?いや、罷り通っていいのか?正直財布が消えてからずっと困惑しっぱなしだが、ここに来て少しだけテンションが上がっている自分もいる。まずは、まずは取り敢えずお試しで消しゴムとか作り出したりして───。

 

 

そう考えてる時間だけが結局一番楽しいんだよな。

 

何ッ一つ上手くいかん。もう本当面白いくらい何も生み出せねぇ。自分の能力らしき物の可能性に目を輝かせてから2時間半。もしかして、僕は物をサトイモに変える事しかできないのか?いや、というかそもそもサトイモに変える力って何だよ。やっぱりこれ全部僕の幻覚なんじゃないのか?それでも、僕は確かに財布がサトイモになった瞬間も見たし、実際に手に触れて片付けた。なんなら今も部屋に土の匂いは香っている。

 
ふと、スマホが振動した。何かと思って画面を見る。交番からの3回目の着信だった。話を聞くと、「あんたの言ってた特徴に当て嵌まらなくも無い財布が何個かあったから一応見に来い」との事らしい。机に目をやれば、先程サトイモを片付けたついでに家中全部探しまくって発掘したいつだかのへそくりである2万円が綺麗に畳まれている。

どうしよ。

行くか。

先程掘り出した2万円をスマホカバーの裏に挟み、ポッケへと突っ込んだ。茶色のコンバースに足を掛けて玄関を開けると、空は少し赤く濁り、無様な夕焼けの気配を満たしている様である。

 

 

 
子供の頃から散歩は好きだった。世界の全てを全力で解釈し、そこに溶け込む事ができる気がしたからだ。同様の理由で音楽を聴く事は好まなかった。音楽という輪郭によって、僕は世界からの画一性を失ってしまう。夕暮れ時の街は暗く朱く影を落とし、豆腐屋のよく分からん音の残響が住宅街に巡り続けている。駅前に出れば、無駄に爽やかな雰囲気を醸し出しているオッサンからポケットティッシュを一枚配られた。まぁまぁ暑いのに精が出る物である。
 

溶け込むのは楽なのだ。流されるのも。

 
それでも。何とも無く手の内に収まったポケットティッシュを凝視する。次の瞬間、右手は突然凡そティッシュでは無い重さを覚えている。土の匂いが香っている。ティッシュが、サトイモに変わっている。

この意味のわからない能力を僕が突然持たされた、という事は順調に事実へと昇華されてきている。絶対に世界に溶け込む事の出来ない圧倒的異物として、僕は存在してしまっている。それが何を意味するのか。溶け込めなかったその先は。それを思案する度に、頭痛はまた酷くなるのだ。

 

駅前の喧騒から少し遠ざかり、交番までは後5分程。マジでこれ終わったら酒でも買おうかな。そんな現実逃避の算段を立てていると、突然、身体が止まった。

 

反射で振り向く。右の手首を掴んでいたのは、白く小綺麗な手。細めの腕は捲られたデニムシャツへと吸い込まれ、その下にはベージュ色のゆるいTシャツが覗いている。"黒っぽいけど黒ではない"色をした髪はさっぱりとしたボブで(多分刈り込み入れてるし)、フレームの細い丸眼鏡の奥に構えた瞳は確かに僕を捉えている。
 

 
つまる所見知らぬ女子に手首を掴まれていた。サトイモ握ってる方の。

 
 
「え、あ、え……?あの、すいませ」
「君。今すぐ逃げた方がいい」
「は?」

 
突然の出来事に滅茶苦茶キョドった反応をしてしまったが、その後思わず出た滅茶苦茶無礼な反応によって打ち消されたと思いたい。ともあれ僕がこんなクソどうでもいい事をつらつらと考えているのは、今僕の手を握ってる彼女の何もかもに処理が間に合っていないからで。

 
 

「このままだと君、脳天ブチ抜かれて殺されるよ」

  

ふくらとした唇。
ほんの少しだけ垂れた目。
何処か気怠い口調。

それに全く似つかわしくない、意味不明な発言。

 

これが僕達のファースト・コンタクトだ。
 
 


 

.02

 

 
「……え、殺されるって、つまり、え?」
「ブチ殺されるね」
「殺すってあの?」
「あのブチ殺すだね。この問答意味ある?」

 
意味が有るとか無いとかそういう問題ではない。そもそもの話人の手首を突然掴んで話しかける事も人に対して突然死刑宣告をする事も、もう何もかもが不審極まってる。面食らって硬直してる僕の顔を一瞥して、不思議そうに少女は言う。

 
「何その間抜け面。んな事突然言われても、って顔してる」
 

全くその通りだよ。何とかこの不審者から逃れる為の平和的且つ論理的な説得材料を脳内で高速検索してみるが、それをやるにしてはこの状況が意味不明すぎる。結果的に「えっと」「その」とかいう間抜けな鳴き声しか発する事が出来ない僕を他所に、彼女の目線が掴まれた手首の先、サトイモの一点に注がれている事に気づく。

 
「……もしかして、この、サトイモ?」

 
恐る恐るの発言。
彼女はふっと僕を見て「なんだ、察しいいじゃん」と一息吐きながら、僕に投げかけた。

  
「簡潔に聞くね。このサトイモ、改変による産物でしょ」

 
心当たり。

無い筈がない。何故ならこのサトイモの正体は先程僕が何も考えずに置換したポケットティッシュだからである。つまる所、間違いなくこの状況を作り出した元凶は僕が手にした能力という事。物をサトイモに置換する。芋煮会の英雄くらいしか就職先が見つからないこの能力と、つい先程面と向かって言われた「逃げた方がいい」という発言。以下の要素を組み合わせて導き出される結論は、

 

「……もしかしなくても、この世の理に反するとかで消されます?僕」
「質問を質問で返すかね普通。でもまあ、大当たり」

「君は現実改変者。この世にいてはいけない存在だ」


 
────成る程。

いや全然成る程じゃないんだけど。他ならぬ最初に脳内に浮かんだ言葉がその四文字である事は、確かな現実として今を流れている。記憶の欠片が、不出来なパズルの様に嵌っていく。

現実改変。それが何を指すのかは未だ知らないが、言葉の羅列的に恐らく僕が部屋で予想したものと同じ様な物と想像できる。現実の改変。この世にいてはいけない存在。

あれ?

「え、あの」
「何?早い所───」

いやその。
ほんとに早く飲み込んで欲しいであろう所、マジで申し訳ないんですが。


「僕、サトイモしか作れないんすけど」
「……は?」


彼女が思いっきり顔を顰めたとほぼ同時に、僕も我ながら何を言ってるんだと顔を顰めた。
と同時に彼女が思いっきり背後を振り向いて、人混みの向こうを睨みつけているのに気づく。いや違う。睨みつけているというより、その表情には確かな恐怖が色濃く混じっている。つられて向いた先。それは僕にとって只の人混みにしか見えなくて。雄弁は銀、では沈黙は。安牌の金を取った僕の裾を、彼女が静かに掴んでいる。


「……走る準備できてる?」


小声で囁かれた内容は紛れもなく最悪である。更に顔を顰める僕をガン無視しつつ彼女が何やら札の様な物を懐から取り出す。ペン回しの如く滑らかに手を回った札はそのまま地面へと落下して、いい音を立ててコンクリートに張り付いた。

瞬間。

僕ら以外の世界の全ては薄暗く停止する。世界がモノクロに塗り潰されたみたいに見にくくなって、落ちてくる筈だった緑の葉は僅かに下降を足掻くのみ。時間が極限まで凝縮された狭間に突然放り込まれた感覚。だが僕はここで状況も察せず取り乱す程空気の読めない人物では、


なっ───んだここ……?」
「ざっと言うと簡易的な余剰現実。そこそこ声デカかったけど抑えてくれて助かるよ」


ない筈だったんだけどな。最大限の努力は讃えて欲しい。

彼女が動じた姿を見せない事は皮肉にも僕に僅かな安心感を覚えさせた。あくまでこの空間に対して、だが。額に脂汗を滲ませた彼女が見つめる先、群衆の中で一人時間の止まっていない人物。黒スーツを着込んだ一見して何の変哲も無い社会人男性、だがにしては様子がおかしい事が一目で分かる。確かに彼は僕とほぼ同じ様に取り乱してはいる、がしかしそれでも確実に周囲の景色を探っている。


確実な情報収集。明らかに冷静すぎる。


だからこそ直後、彼が僕達と完璧に目が合った刹那。状況からして明らかに僕らはこの男と対立する構造で、彼は今の今までこちらの顔はよく見えていなかった様で。明らかに驚愕した彼の顔と、一瞬芽生えた疑問点。流れ的に僕を始末する為の刺客、が現実的な筈。とすると確かに起こったイレギュラーが一つある。想定に無い特異点。見開かれた鋭い瞳は、

彼女の顔を映している。

「随分と驚いた様子で面白いね、財団さん」


吐き捨てる彼女の声が帯びた微かな震えは、この場の緊張を表している。
財団という単語。聞き馴染みの無い名前なんてこの現状では気にもならない。

男が口を開く。感情を殺した無機質な声は、やけに耳の奥に木霊する。

文字数: 7227

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