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Outer Osaka Police Department / Casa File - BOOGEYMAN
午後3時、前時代的なデザインのボロいアパートのある一室に3人の警官が突入しようとしていた。1人は四肢を完全に機械であり、もう1人は頭部がモニターに置き換わっている。そして最後の一人は──何も無い。ただの人間だ。音をたてぬように扉を開き侵入する。誰かがいる様子は無い。
(俺は右の部屋、タマキは奥、アカサカは左を見ろ)
モニター頭が文章を表示する。それぞれ指示に従うように動き始めた。何も無いただの人間──アカサカ──は既に開いている扉から左の部屋の様子を覗く。
人影が見えた
遠くにいる2人に声をかけようとするもそんなことをすれば逃げられてしまう。かと言って目を離して伝えに行くわけにも行かない。アカサカは1人で捕まえることを決意した。幸運にも容疑者はこちらに背を向けていて、どこか義体化しているようにも見えない。銃で脅すよりも組み付いて捕まえる方が確実だ。
後ろから勢いよく飛び出し相手の足を掬い、倒れそうになったところを頭・両手を掴み身動きを取れなくする。大きなもの音を聞いてモニター頭とタマキが加勢に来るだろう。実際、ドタドタとこちらに向かって走ってくる音がする。
勝ちを確信した瞬間、ふと部屋の奥に置かれていたベッドが目に入った。赤い布団の中に入っていたのは、顎から上の無い、血濡れた死体だった。
動揺、混乱、そして少しの恐怖
一瞬力が緩んだその隙に拘束を抜けられ、両手でアカサカの頭をがっしりと掴むと血走った目を向けながらブツブツと何かを言い始める。即座に銃に手を伸ばそうとするも体が全く動かない。耳・目・鼻から血が出る。割れるような頭痛もしてきた。
目の前が赤く、そして黒くなっていく。
何も見えなく、何も聞こえず、何の匂いを感じない
痛みすらも感じなくなり
身を任せるように
眠った
「起きろアカサカァ!」
大声で目が覚め、飛び起きるように体を起こす。周りを見渡せば、簡易ベッドのようなものに寝かされていたようで、ガスマスクを付けた整備士のような格好した人達がこちらをじっと見ていた。
自分の置かれた状況を把握するために頭を返させようとするがなかなか時間がかかる。ひとつ分かることは、ここは先程のアパートの廊下のようで、アカサカを起こしたのは──
「イナビカリ本部長」
「いつまで寝とんねんはよ起きて医者さんに礼言わんかい!」
「医者……?」
周りを見渡した時に医者のような人はいなかった。なら、こっちを見つめてくる──ガスマスク越しなので本当にこっちに目線が来ているかは分からないが──整備士達の事を言っているんだろう。アカサカが礼をいえば、無言でそのままどこかへ立ち去っていった。
「自分もう死にかけとってどないしようもなかったから、体勝手にちょっと義体化させたぞ。文句ないなぁ?同意書とかは後で書いときや?」
先程から感じていた違和感はそれだろう。何となく体の左右のバランスが取れていない感覚がずっとあった。正直言って今まで体を機械にするのには抵抗があったが、今回のような状況では仕方がなかったのだろう。
「わかりました。ところで犯人は捕まえましたか?」
「いや、逃げられてもうたらしい。窓からぴょーんって外に飛び降りてそんまま走ってったんやと」
「窓から?ここ8階ですよ?」
「タマキとモニターがそう言うとんねん!ワシに聞くんちゃうわ!」
なら自分で聞きに行こうと立ち上がる。整備士が置いていってくれたのだろう杖を使い、進入禁止のホログラム結界に群がる野次馬をどかしながらアカサカは現場に入る。
そのまま寝室の方へと進めば、あの時見た顎から上の無い死体とアカサカの耳と目と鼻から出た血を鑑識達が囲っていた。何となく少し恥ずかしかった。それよりも気になったのは、鑑識の横でタバコを吸いながら死体を見つめてる背の高い女だ。
「シビミヤてめぇコラァ!また現場でタバコ吸うとんのかぁ!」
ついて来ていたのか、イナビカリ本部長がアカサカの後ろから叫ぶ。また耳から血が出るんじゃないかと思えるほどの声量だ。しかも、またと言ったことからこいつは常習犯なのだろう。女は煙を吐きながらこちらを向く。
「部長。こいつジョン・ドゥすよ。身分証明書もアパートの記録も全部デタラメ。義体化痕も無いからそこからの特定も不可能。極め付きにこのアパートってことも含めて考えると多分こいつは違法滞在者──誰っすかそいつ」
目と目が合う。スーツにヨレヨレのコートを着て髪を後ろに雑に纏め、虚ろで光の無い隈だらけの目をした女だ。本部長を前にしてもタバコを吸う手は止まらないどころか、次のタバコを吸おうとしている。
「吸うなって何回も言うとるやろが!ええ加減にせぇ!ポケットになおしとけ!あとワシの事は部長やなくて本部長って呼べ!」
「わかりましたよ。注文が多いなぁ……で、誰すかそいつ」
「こいつは新人のアカサカ、そこで死にかけとったヤツや!今日から自分とバディ組むことになるからちゃんと覚えときな!」
「え、聞いてない」
もちろんアカサカも聞いていなかった。
「アカサカは独断行動が過ぎる。やから杖で身体支えなあかんくなる状況になんねん。シビミヤはこんなんでも優秀や。しばらく下におれば義体化にも慣れて、得られるもんもあるやろう」
「……そう言われましても、いきなり過ぎて困ります。確かに一人行動で死にかけたことは事実ですし反省していますが──」
「自分は見ず知らずの子供のお守りをするほど暇じゃねぇんすよ。アカ……なんたらも同じこと思ってるっすよ。どうせ適当にバディ決めてんだろって」
思ってる思ってないで言えば思っている。先輩から聞いた話によると、イナビカリ本部長はバディを組ませるときは手がかかるやつを合わせて無理矢理相互抑制させて解決しようとする節があるが、もちろん解決などするはずはなく、むしろ悪化して2人共辞職するなんてこともよくあるらしい。
「やかましい!これは命令や!ええ加減自分は後輩育成の一つや二つこなさんかい!」
「はいはい命令ならやりますよ。えーと、アカウラ?」
「アカサカです」
「あぁそうアカサカ、な。よろしく。シビミヤだ」
シビミヤは指をクイックイッと曲げて着いてくるように示してくる。まだ義体化に慣れていないので杖に支えてもらいながら何とか歩く。何度も倒れそうになるが、その度に壁に手を付いて進み続ける。
死体のある部屋に入り、シビミヤはそのまま窓の方へと歩き続けた。体を乗り出して窓の外の様子を見ると、溜息をつきながらアカサカの方を向いた。
「8階から落ちても無事な人間、どんなやつだと思う?」
「全身を義体化していたとしてもここから落ちて無事ではいられないでしょう。なら、何かしらのアーティファクトを所持しているか紫煙使いといった能力者である可能性もあると思います」
「そうだよなぁ……紫煙使いかもしれないよなぁ……面倒だなぁ……」
紫煙使い──死に直面するようなトラウマを抱いた状態で神格に遭遇した時に力を得ることの出来る能力者──の事を聞いた途端にシビミヤのやる気が目に見えて無くなっていくのを感じた。
「まあ、タマキとモニターが紫煙を見ていないって言ってたから多分違うと思うが……能力者の可能性は全然あるんだよなぁ……」
「そこまで厄介なものなのですか?」
「あぁ厄介も厄介、大厄介だよ。捕まえても逃げられるわ仲間も大勢殺されるわ民間人も巻き込むわで……そのくせ責任は私ら警察の方に来るんだよ。面倒だなぁ……」
そうボヤきながらポケットからタバコを取り再び吸い始める。
「なら、早く捕まえましょう。死体は身元不明と言っていましたが、犯人の手がかりはなにかありましたか?」
「あーそうだな。死体の身元の方だが一応アテはある。紫煙使いを相手にすることの次に面倒なことしないといけないけどな。で、犯人の手がかりはこれだけだ」
タバコを持っていない方の手でポケットからジップロックに入れられた小さな紙を見せてくる。そこに書かれていたのは──
O/Oに来れば逃げられるとでも思ったか?
全員そこで待ってろ
ブギーマンが殺しに行くからな
──犯行声明だった。
«グーッモーニン O/Oオーオー!»
今日も電波ジャックによってどこの誰が流しているかも分からないラジオ番組を聞いている。この放送はどんなテレビやインターネットよりも早く情報をくれる。
おぉっとこれはひどい!キョウバシ区画ディストリクトのアパートでなんと殺人事件が起きたらしい。しかも?殺されたのが誰かわからんし?顎から上が吹き飛ばされたんだってぇ!?可哀想に!リスナーの諸君は吹き飛ばされても大丈夫なようしっかりと頭部は全部義体化しときや!
ところでこのアパート、実は違法滞在者が沢山住んでいるらしいな!H.R.Kに呼ばれてきた奴らと違法滞在者に違いがあるんかはようわからんけど。そんでさらに!なんとこのアパート、実はあのギャング組織、"紫の……おぉっとすまない!3年振りに誰かが俺の場所を特定したと情報が入った!まあもちろんそんなことできるはずはないんだが……念の為今日の放送は終了!ここまでお送りしましたのはアウターオーサカ名物DJ──
そこまで聞いてラジオを切り、ため息をついてからグラスの中に少しだけ余っているバイオレットフィズを喉の奥へと流し込む。カウンターに空のグラスを叩きつけると同時にスマホのホログラムが着信が来ていることを示してくる。
『……失礼します。O2PDの刑事二人がお会いしたいと連絡を受けましたがどうされますか』
「わかった。連れてきてくれ」
『了解しました。女王』
「女王?」
「あぁ。正確には"紫の女王"。私はムラサキって呼んでる。女王なんて肩書がつくほど良いやつじゃない。ギャングのボスだからな」
「ある意味女王ではありますね」
商店街を刑事二人が歩いている。二人はあるバーに向かっていた。シビミヤが言うには、そのバーに被害者の事を知っているムラサキという人物がいるらしく話を聞きに行っているのだが……
「なあ休憩しないか。歩き疲れた」
「ついさっき休憩したばっかりですし、何回休憩するんですか」
自分から提案しておいてシビミヤが行きたがらないのだ。「紫煙使いを相手にすることの次に面倒なことしないといけない」と言っていたが、今から会う相手はそんなに面倒な人物なのだろうかとアカサカは疑問に思う。
「早くいきましょう。事件の早期解決を目指すのが刑事でしょう」
「……わかったよ」
「ほら、もう着きますよ」
"Bar Queen's Rose"
チリンと鈴の音が扉を開けるとともに店内に響く。店内の装飾の豪華さと裏腹に客はほとんどいない。居るのはたった一人。カウンターに座っている紫のドレスを着た女性だ。二人の方を見ると手を上げ指でこちらに来るように示してくる。
その女性の横に一つ席を空けてシビミヤ、そのすぐ隣にアカサカが座る。ウェイターが注文を聞いてくるがシビミヤが「いらない」というとどこかへ行ってしまった。
「シビミヤ久しぶりだなぁ。何で会いに来ない?私の事が嫌いか?」
「嫌いだよクソ女」
「そうかよヤニカス女。で、そっちのは誰だよ」
女性は目線を変え、アカサカと目と目が合う。シビミヤが虚ろな目をしていたり髪が乱れているということもあるからだろうが、女性は非常に美人に見えた。よく見れば紫色の瞳、紫のインナーカラー、さらにネイルも紫色……体の装飾品が全て紫色で構成されている。執着のようなものを感じ取れるがどれも美しく、この女性に似合っているように見える。
「アカサカです。シビミヤさんの後輩です」
「へぇ。で、何しに来た」
興味が無くなったのかすぐにシビミヤの方へと目線を直す。装飾の特徴やシビミヤとのやり取りを加味してこの女性がムラサキであることは間違いない。
それよりも気になるのは二人の関係性だ。割とお互いを知っているようではあるが、仲は悪そうだ。友人同士の仲だからこそとも見えるが、シビミヤのあの態度を見るにそうでは無いのだろう。
「どうせ知ってんだろ。お前のとこのアパートで人が殺されたんだ。でも誰かわかんねぇから聞きに来たんだよ。さっさと教えろ」
「本当に礼儀を知らないな?その辺の物乞いでも頭を下げるぐらいのことはするぞ」
シビミヤは舌打ちをしてコートの中から古めかしい拳銃を取り出しムラサキの額に銃口を当てる。そんな状況でも、ムラサキは余裕そうな態度を崩さない。
「シビミヤさん。彼女に発砲命令は出ていません。銃を下ろしてください」
「『危機的状況に陥った場合許可なく発砲しても良い』だよルーキー。ギャングに脅されたから今危険な状況なんだ私は。こいつを殺せばオーサカから1個癌を潰せて顧客情報を取れて一石二鳥なんだよ」
「好きにしなよ。殺しても意味ないことぐらい知ってるくせに」
互いに睨み合い、居心地の悪い静寂が場を包む。唯一その場で動いているのはシビミヤのタバコの煙だけだった。アカサカはその空気に耐えられるほど我慢強くはなく、それよりも先に行動してしまう人間だった。
「では、何をすればいいですか」
「は?」
アカサカのその一言に呆気にとられたシビミヤは口からタバコを零した。落ちる前に銃を持っていない方の手で再び加えてから、銃口の先をアカサカの方へと向けた。
「おい。何もするなとは言ってないが何かしろとも言ってない!今の言葉をすぐに取り消──
「いいだろう!シビミヤがダメならお前と契約する。決定だ」
そう嬉しそうに言った瞬間、シビミヤはムラサキに向かって発砲する。至近距離での発砲。初めて銃を握った人間でも当てられる確率の非常に高い距離で──シビミヤは全弾外した。
「『契約の場の邪魔をしない』だったか、昔お前と契約した時の条件は。今の契約不履行は見逃してやろう。さあその席をどいてくれ。アカサカと話したいんだ」
シビミヤを無理矢理席から離してアカサカの隣に座る。何かの花の香水の匂いが彼女が動くたびに周囲に漂う。アカサカにとっては苦手な匂いだった。
「こっちが提示する条件は……そうだな。『一度だけ絶対に言うことを聞く』にしようか。わかりやすいだろ?」
発言やシビミヤの態度を見るに、ムラサキは契約に関する能力を持っているんだろう。「相手との契約時、提示した条件は今後いかなる状況でも破ることはできない」のような。この条件を断れば、さらに厳しい条件を出してこちらを揺さぶってくるだろう。ならば──
「わかりました。その条件の代わりに顧客についての情報を教えてください」
「アカサカ!」
「シビミヤ、邪魔するな。それじゃあアカサカ、これから仲良くしていこうじゃないか」
ムラサキが右手を差し出す。アカサカはその手を握り、契約は成立された。
「じゃあ手配するから少しここで待ってろ」
ムラサキが離れたところでスマホを持って誰かに電話をかけている中、シビミヤはアカサカの胸倉をつかみあげる。アカサカが若干顔をしかめるが直ぐに真顔に戻った。
「何やってんだお前!」
「あの状態からいい方向に動くとは思えませんでした。むしろ悪い方に行くでしょう。自分で言うのもなんですが、賢明な判断だったと思います」
「だからって!……いや、すまない。私が悪かった」
シビミヤの握る手が少しずつ緩んでいく。完全に手を離した頃には怒りの感情は消え、何とも形容しがたい顔をしていた。焦り、後悔、落胆が混ざったような顔だ。
そんなことをしていると、ムラサキがいつの間にかカウンターに戻り、二人を見てニヤニヤしながらカクテルを呑んでいることに気づいた。
「仲がいいのは素晴らしいことだが、顧客情報は見なくてもいいのか?なんの見返りもなしに私の願いを聞きたいのなら早めに言ってくれ」
二人が無言でカウンターに座るとムラサキはスマホの画面を二回タップしホログラムを展開した。
「まずお前らが一番気になっている奴を見せてやろう」
「さっさと見せろ。被害者は誰なんだよ」
「なんだ。犯人よりもそっちの方が気になるのか」
「は?」
「はい?」
二人は頭が一瞬動かなかった。仮にムラサキが犯人を知っているとして、なぜ・どうやって知っているのか合理的な理由が思いつかないからだ。相手がギャングのボスとはいえ警察よりも早く犯人を特定しているなんてことはありえない。
「ほら。こいつだよ」
ホログラムに一人の男の顔が映し出される。アカサカがあのアパートで見た顔だ。頭を割られそうになっていたのを思い出し若干気分が悪くなる。
「確かに。こいつです。でも何故あなたが知っているんですか?」
「客だよ。情報を買いに来たんだ。三人分」
「そのうちの一人が被害者だったからこいつが犯人ってことか」
ムラサキが画面をスワイプし今度は三人の顔を映す。この三人の情報を買ったのだろう。そしてそのうちの一人が──顎から上が無かったので正確にはわからないがおそらく──被害者なんだろう。
「この三人の関係は?」
「元ギャングの運び屋。ギャングっていってもこいつらの宇宙のギャングだから詳しくは知らない」
「彼らは何のためにここに来たんですか?」
「元の宇宙でなんかやらかしたみたいで、必死に逃げてここまで来たんだと」
……と問答を繰り返していくうちに、2人の頭の中で彼らの人物像が浮かんできた。
まず、被害者の名前は"オガサワラ"。元の宇宙ではブラックロッジというギャングに所属していた運び屋だったが、3人の仲間とギャングの金と薬を大量に盗みO/Oへと逃げてきた。そして犯人の名前(?)は"ブギーマン"。彼らを追ってきたブラックロッジの殺し屋ということだ。
「ブラックロッジっていうと、サーキックのギャングか」
「肉や血を崇拝する宗教と噂されているあのサーキックですか?実在していたんですね」
「あいつらは秘密主義者だからな。俺もほとんど知らない。そもそもO/O内での活動はほとんど見られないし、仮に事件を引き起こしても私たちに捕まることも滅多にない」
「どうしてですか?」
「お前が一番知ってるだろ。肉と血の魔術だよ」
犯人に襲われたときの光景がフラッシュバックする。動揺は見せないが、その代わりなのか義体化した部分が痛むような感覚が走った。
「で、これが残り二人の居場所だ。一人は"ハイジマ"、もう一人は"ハタケヤマ"。これ以上の情報は持ってない。早く助けにいかないともう間に合わないかもしれないぞ」
「なんで初めに渡さないんだクソ野郎!急ぐぞ!」
「はい!」
シビミヤがバーの入り口扉を蹴破るように出ていく。急いで追いかけてバーから出る直前、一瞬だけムラサキの口元が動いて何か言っていたように見えたが、それを確認しに戻ろうと思うほど時間がなかった。
「馬鹿だなぁ」
渡された住所はどちらもムラサキのギャング管轄のアパートだ。自分は"ハイジマ"の方へ、シビミヤは"ハタケヤマ"の方へ向かっている。バディから離れることは規則上褒められたことではないが、人命がかかっている以上仕方のないことだ。
ヨドガワ、O/Oの中でも比較的安全なエリアだ。ギャングや裏の住人自体は多いが、大部分が東弊グループの工業地帯で、また行政の保護がある区画もあるため進入禁止レベルではない。行政の保護を受けれて、かつすぐに裏の世界にも行けるこの地区は正直O2PDにとっては少々厄介な場所だ。
「この部屋か……」
4階一番奥、404の番号がついた部屋のインターホンを鳴らす。……返事はない。拳を握り扉を叩く。
「すみません。ハイジマさんいらっしゃいますか」
反応はない。次は強めに扉を叩くが反応はない。
「アウターオーサカ市警だ!ハイジマ開けろ!」
自分の身分を声に出した途端、中で物音がした。急いでドアノブを回すも鍵がかかっている。少々危険だが銃でドアノブを撃ち無理やり鍵を開ける。警戒しながら部屋の中を見回ると、風呂の中に一瞬人影が見えた。
「ハイジマ!アウターオーサカ市警だ!お前を保護しにきた!」
風呂の扉を開けると、湯船の中からこちらに向かってショットガンを構えているハイジマの姿があった。目があった途端ハイジマは銃を撃ってくる。間一髪で壁に隠れて怪我はしなかったが、いまだに体のバランスが取れていない状態で飛ぶように避けたのですぐに倒れてしまう。
「撃つな!もう一度言う!俺はアウターオーサカ市警だ!お前を保護しにきた!」
「黙れ!誰も信用できない!今すぐ出て行け!」
「今から警察手帳をそっちに投げる!銃も下ろす!それでどうだ!」
懐から警察手帳……ホログラム化されていて手帳と言えるかは定かではないが、手帳を取り出し風呂場の方へと方へと放り投げる。銃も同様に放り投げ自分に危害を加える意思はないと示す。
「頼むお前も銃を下ろしてくれ!お前今殺し屋に狙われてる!」
「出ていけ!じゃないと今すぐ殺してやる!」
「殺し屋の名前は"ブギーマン"!お前らが元居た世界の殺し屋のはずだから知ってるだろ!俺は警察だ!もう一度言うがお前を保護するために来たんだ!」
「……クソッ!わかった!銃を下ろす」
カチャと音がしてゆっくりと風呂の中を覗く。ショットガンが下され両手を挙げているハイジマが見えたので、杖を使って立ち上がり彼の元へ向かう。
「手錠をかけている時間はない。下に車を停めてあるから急いで来てくれ」
「俺らは金が欲しかっただけなのに……なんでこんなことに……どうやって殺したんだ……」
「急げ。いつ襲いに来るかわからないぞ」
急いで部屋を出てエレベーターで下に降りる。周囲を警戒しながらハイジマを後部座席に押し込み自分も運転席に乗ろうとした。ふと、視線を感じてアパートを見上げた。先程までいた四階には誰もいない。いや、もっと上。五回でも六階でもない。屋上だ。屋上の縁からこちらを見下ろす黒いフードを被った人間。
一瞬で"奴"だとわかった。
「まじか」
途端、奴はこちらに向かって飛び降りてきた。
「うわぁぁぁぁ!?うそだろぉぉ!?」
運転席に乗ると同時にアクセルを踏み込み急発進するも、爆音とともに車の屋根に人間大ぐらいの凹みが生まれてしまった。義体化している部分に衝撃が走り、脳が揺らされる。運転がままならず通行人や電柱に何度もぶつかりそうになってしまう。ふらついた運転ながらも奴は屋根の上にいて振りほどくことができていない。
「生きてるかぁ!?」
「生きてるに決まってるだろ!こんなことになるなら銃を持ってくればよかった!」
明らかに後部座席が血まみれに見えるが、なぜか元気そうにそう返される。急ブレーキで前方に放り投げることも考えたが恐らく失敗に終わるだろう。どうにかしておろすことができないかと考えるがそんなことをしている間に屋根に穴が開き始める。
「こいつ素手で車に穴を……!?」
穴に向かって銃を何発か適当に打つがどれもまったく効いていないのか穴を広げるのを止めようとしない。使えない銃をその辺に放り投げできるだけ急いで仲間のいる所へ向かう選択を取った。ここから本部まであと12km、本部のあるナンバへ繋がるポータルに車ごと突っ込めば10分かからず到着することができる。だがそれまでにブギーマンがハイジマに手を出す可能性の方が高い。
「おい!生きてるならあいつが入ってこないように押さえろ!」
「腕が折れて押さえれない!」
ポータルまであと200m、幸いにも車どおりはほとんどなくこのまま突っ込めばもしかしたら本部まで間に合うかもしれない。アクセルを力強く踏み込んで……と思った途端、ポータルの中からものすごいスピードで逆走してくる車が現れた。
「……こんな時に限って逆走かよ!?」
そう叫びながら車から飛び出す。地面に体が削られ20mほど転がってから自分の体はようやく止まった。そしてすぐに車のあった方向から爆発音と共に、強くて熱い風が瓦礫を連れてこちらに吹いてくる。そのうちの一つが頭にぶつかり、そのまま意識を失った。
目を覚ますと周りは炎と瓦礫に包まれていた。急いでこの場から逃げようにも全身に負った怪我のせいで這って動くことしか出来ない。できるだけ距離を取ろうとすると、小さく声が聞こえた。
「カ……サカ……」
「ハイジマ!生きてるのか!?」
掠れて、本当に小さい声だった。近くにいるんだろうと周りを見ても瓦礫しか見つからない。探すために腕に力を入れて体を起こそうとした瞬間、何かに足を掴まれた。急いで振り返ると、そこには真っ黒こげになった人間の上半身だけがあった。
「は……何で生きてるんだ……?」
「俺らは…..死なない……絶対……」
上半身どころか、肋骨から下が消えていて中から体のどこの部分化も良くわからない内臓みたいなものがあふれ出している。相手は義体化もしていないただの人間だ。仮に人間でなくても体の半分以上吹き飛んでいたらどんな生物でも死んでいるはずだ。
「たすけ……頼む……」
助けようがなかった。体はもうほとんど動かない。ポータルを通れば本部に着くが周りは炎で囲まれてる。そして、今すぐ死体を助ける手段なんて誰も持っていない。今できることは、できるだけこの場から離れることだ。次いつ爆発するかもわからないし、考えたくはないがハイジマが生きてたならブギーマンも生きてる可能性がある。
痛みをこらえながら立ち上がり、ハイジマを抱きかかえる。ポータルの方への道は使えないので、できるだけ炎の少ない反対方向へと向かおうと歩き出す。その間もハイジマはうわごとのように話しかけてきた。
「あいつも……生きてる……俺らは死なない……」
「お前はどうやって生きてるんだその状態で……」
炎をよけながらなんとか距離を取ることができた。さすがに痛みに耐えかねて動けなくなる。できるだけゆっくりハイジマの事を地面に置いてそのまま倒れる。事故の爆発音につられて野次馬も集まってきている。誰かが呼んだのかサイレンの音──パトカーか救急車か判別できる余裕はないが何かしらが来てくれている。
少し安心した。
安心してしまった。
ふと横を見ると、ハイジマの首に何かを注射しているブギーマンがいた。
その瞬間が、何時間にも感じられた。注射器からハイジマの中に紺色の液体が流れ込んで、数秒してからブギーマンは頭を吹き飛ばした。
目の前で行われた殺人を、ただ見ていることしかできなかった。
ブギーマンが立ち上がりこちらに走ってきてそのままの勢いで体に蹴りを入れてきた。先程爆発に巻き込まれたとは思えないほどの強さで吹き飛ばされる。
「てめぇぇぇ!何度も何度も何度も何度も邪魔してきやがって!」
そう言いながら蹴り飛ばし続ける。今までの鬱憤を晴らすような感じで、蹴飛ばす度に奴の顔が晴れやかになっていくのが見えた。爆発に巻き込まれたはずなのに奴の顔は火傷ひとつ負っているように見えなかった。
「あぁー……スッキリしたー!あとはお前の頭を吹っ飛ばすだけだ。このまま生かしてたらまた邪魔してくるかもしれねぇからなぁ?」
髪を雑に掴み地面に叩きつけられる。鼻が折れた音ともに、ブギーマンと初めてあった時と同じような痛みが頭全体に広がり始める。意識がなくなり始めた……その時。
パトカーがブギーマンにすごいスピードで突っ込んだ。アカサカの意識は、その景色を最後に無くなった。
「よぉ。ブギーマン」
たった今パトカーで突っ込んだやつに向かってシビミヤは声をかけた。どうせ死んでいないのはわかっていた。シビミヤだってこの程度で殺せたとは思っていない。案の定、ブギーマンは立ち上がりこちらに声をあげる。
「……クソポリ野郎が!」
ブギーマンが全身に傷を負って血を流していることをシビミヤは確認すると、即座に数発の弾丸を撃ち込んだ。再びブギーマンがその場に倒れ、助手席からショットガンを取り出し警戒しつつ近づく。
「お前、8階から落ちたり爆発に巻き込まれても生きてたよな?サーカイトなんだから肉体強化の魔術を使ってるのは明らかだ。でも車に轢かれたり銃で撃たれたりしたときは明らかに怪我をしてる。つまり今はその魔術が機能してないってことになる」
胴体にショットガンを撃ち込む。
「私は魔術を使ったことないから詳しくは知らないが、永続的に機能する魔術ってのは少ないらしい。連続して使うにはクールダウンが必要なんだよな?無理して使うと脳が焼き切れるんだってな。あー要するに私が言いたいのはな──」
「はぁ……!はぁ……!なんなんだクソッ!」
「生身の人間がどうやってここまでボコボコにされて生きてるんだってことだよ」
ボロボロのブギーマンが地面を這いずってこの場から逃げようとしている。大量の血液と肉片が飛び散り、四肢は変な方向へ折れ曲がっており、這いずって逃げていることで皮膚がズタズタになっている。いくら魔術を使って肉体を強化していたとしても確実に死亡しているはずだ。
「あぁー……わかった。わかったぞ。お前が死なない理由がわかった。昔逮捕したことがあるぞ。オメガ・ケイだろ。そもそも死ぬことが許されてないんだ」
オメガ・ケイ。かつて財団が発生するはずがないと思い込んでいたKクラスシナリオから名付けられた、体中から血液を全部抜いても、上半身と下半身を切り離しても、ミキサーにかけたとしても「絶対に死なない人間」の総称だ。
「まぁ死なないやつにも弱点はいくつかあるんだ。その一つが脳。さっきも言ったが魔術を連続で使用しようとすることで脳が焼き切れる。逆に言えば脳が魔術を出すために最低限必要な器官な部分ってことだ。いや詳しくは知らないが、とにかくそこを潰しちまえばお前は本当に何もできなくなるんだ」
ショットガンの銃口をブギーマンの頭に向ける。その距離10cm。外せる距離じゃない。
「じゃあな。来世じゃ良いやつになれよ」
大きな銃声が鳴り響く。後にはブギーマンの脳が飛び散っているグロテスクな惨状が……無かった。銃弾は弾き飛ばされ、頭には傷1つついていなかった。さっきまではなかったはずの厚い肉の装甲が頭部全体に覆われていたからだ。
「……お前どうやって」
そうシビミヤが言った途端何かに足を掴まれた。さっきまでボキボキになっていた腕が綺麗に回復している。足も、胴体も、皮膚も全部!
「1回だけだ。人生で1回だけしか使えない保険をかけていたんだ」
装甲の下から低い声が響いてこちらに伝わってくる。
「頭を守るように壁を作った。そうしたら脳が壊れそうになった。お前の言ったとおりだ。だからすぐに脳を治した。脳が壊れるよりも早く治しながら体全体を治したんだ!」
ブギーマンはシビミヤの足を掴みながら一気に立ち上がりそのままパトカーの方へと放り投げた。ただでさえ人に突っ込んでへこんでいたバンパーがさらにへこむ。頭だけの装甲を全身へと広げ、完全な防御態勢を作り出す。
「先に任務を終わらせる!それからポリ共は皆殺しにする!覚悟しておけ!」
そう叫んでどこかへ消えていった。
シビミヤは見ていることしかできなかった。
「見た目通りというか、丈夫なんですね」
「お前よく生きてたな……絶対死んでるだろうと思ってたのに」
事の顛末を聞いたアカサカはブギーマンに逃げられたことよりもパトカーに放り投げられて打撲程度で済んだシビミヤの身体の丈夫さの方が気になった。
一方でアカサカは体のほとんどが動かなくなり、操作を続行するには更なる義体化をせざる負えなかった。イナビカリ本部長はまた例の"医者"に頼んだようで、病室の脇に未記入の義体化同意書の紙が置いてあった。
「いつかまた今日みたいなことが起きて全身義体化する時が来るんでしょうか」
「あってたまるか。まあ生きててよかったよ」
何故あの場にシビミヤが現れたかと言うと、シビミヤの向かった住所の方にハタケヤマは居なかったからだ。恐らくオガサワラが殺されたを聞いて移動したのだろう。現在職員が捜索中のようだ。見つけられなかった時点で捜索するよう連絡を取ったからブギーマンに遅れを取る可能性は少ないだろう。
「動けるか?」
「杖はまだ必要ですがいけます」
「じゃあ私たちはブギーマンを探しに行く。あいつに近づいた時ちっちゃいGPSを腹の中に入れて置いた。あいつの肉体が再生した時に壊れてなきゃいいが……」
懐からガラパゴスケータイを取り出し操作する。前時代的なものを使っているなと思いつつも作業の邪魔をしちゃ悪いと黙っておいた。マップアプリの画面をこちらに向け、地図上を赤い点が動いている様子を見せてきた。
「見つけた。捕まえるぞ」
「でもどうやって?」
「方法はあるが……3つ準備しないといけないものがある。囮と、密室と……これ」
そう言って差し出してきたのは1本のタバコだった。
「どこだハタケヤマぁ!」
ブギーマンはイラついていた。警察の保護施設・犯罪者の隠れ家・通り道にあった民間人の家、全部破壊しまくってひたすらにハタケヤマを探しているがどこにもいない。早く任務を終わらせてずっと邪魔してきたアカサカと追い詰めてきたシビミヤを殺してやりたいという欲望と苛立ちばかりが心の中で溜まっていった。
「ここにもいねぇ!イライラさせやがって!!!」
ここ一帯の怪しいところはすべて壊した……と思ったが、1つまだ行っていない場所がある。ブギーマンは全速力でそこに向かう。道中ストレス解消の為適当な人を殺しながら走る。
走った先にあったのは古びた工場だった。紫の女王から貰った情報によれば警察がここを買い取って地下に保護対象の居住スペースを作っているらしい。
放置されてある機材を吹き飛ばして地下への入口を見つけた。中は照明で照らされていて見えにくいが靴の跡があり、明らかに誰かが使っている様子だ。
いくつか部屋があるのでゆっくりと静かにひとつひとつ扉を開けていく。襲撃対策なのか扉が分厚く重い。4つめの扉を開いてようやくハタケヤマらしき人間を見つけた。奴はこちらに背を向けてテレビを見ていて気づいていない。
注射器に込められた"爆死のタナトマ"を取り出す。
タナトマ──特定の死という概念を液体として抽出した薬。逆にこれを注入すると不死のやつでも特定の方法であれば死ぬことができる代物だ。
俺達オメガ・ケイにとっては天敵とも希望とも取れるものだ。高級品なのか、アウターオーサカでも高値で売られていたので予備を買うことはできなかった。最後の1本、相手が油断してる今ここで確実に仕留める。
あと3歩
2歩
1歩……
無防備な首元に注射器をぶっ刺し注入。苦しませる余裕は無い。そのまま頭を爆破させる!
バシュンと音が鳴り頭が吹き飛んだ。周辺に血が飛び散りクィディッチの大会を映していたテレビの画面は全体に赤いフィルターがかかったようになった。
なにかおかしい。
確かに殺した。確実に頭を爆破させ、タナトマも全て注入した。でもなにか違和感がある。
「まさか、まさかこいつは……!」
そう言った瞬間扉が勢いよく閉まり始める。閉じ込められる前に急いで部屋から出ようとするも間に合わない。閉められる直前扉の隙間から杖とタバコの火が見えた。アイツらだ!
「捕まえたぞブギーマン」
扉の向こうからゴンゴンと扉を叩く音が聞こえる。この扉は厚さ50cmの鉄扉だ。そうそう壊せるようなものじゃない。元々発注ミスで出来た扉らしいがこんな所で使うことができるとは。
「噴射開始。モニターに中の様子を映します」
ボタンをクリックし画面にブギーマンが扉を破壊しようとしている様子が映る。シビミヤがマイクを取り中のスピーカー越しに話しかける。
「お前が今殺そうとしたのはポータルを逆走してたやつの死体だ。ハタケヤマは別のとこでもう保護してる。さて、お前の弱点を教えてやろう。脳で魔術を発動させていることと呼吸をすること、そして死なないことだ。耳を澄ませてみろ」
画面の中のブギーマンは動きを止め、しばらくそのままの動きをしたかと思えばまわりをキョロキョロといぞいで何かを探し始める。
「何かが吹き出すような音が聞こえるだろ?正体は一酸化炭素だ。そのうち目眩や吐き気がしてくるぞ?このまま噴射され続ければ頭痛に痙攣、最後には意識を失う。私たちはそれを見てるだけでいい」
シビミヤが話している間にアカサカは別の部屋から椅子を2つ持ってきていた。それぞれ座り、ブギーマンがふらついていく様子をただ眺める。アカサカにマイクを渡し話させる。
「ブギーマン。お前の装甲は一見全身を完全に防御して一つの穴もないように見えるが実際はそんなことないはずだ。不死とは言え普段呼吸をしない訳にもいかないだろう。シビミヤさんがお前が息を荒らげているのを見ている」
「要するに、呼吸のための穴がその装甲のどこかにあるはずということだ。具体的な場所も気になるけどこの作戦では重要じゃない。ところでなんでこんなに話しかけられるかわかるか?答えてみろ」
カメラに気づいたブギーマンはこちらに向かってなにか叫んでいる。このカメラに音声を取得する機能は備わっていないが、シビミヤが「知らねーよって叫んでる」と教えてくれた。読唇術もできるのかこの人は。
「何言ってるのか聞こえないが、理由は2つある。1つはお前にストレスを与えて脳に負荷を与えるためだ。さっきも言ったがお前はそのうち意識を失うがそれはできるだけ早い方がいい。早く装甲も解かれて対処する余裕が生まれるからな。そしてもう1つは──」
「お前が苦しんでるのを見て優越感に浸るためだよバーーーーカ!!!!!」
マイクを奪い取られシビミヤが大声で叫ぶ。それと同時にブギーマンが頭を抱えのたうち回り装甲が剥がれ始める。中から涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が見える。数秒待って、動かなくなった。その後10分ほど放置したがやはり動くことはなかった。
「ん」
シビミヤがアカサカに拳を突き出す。バディを組んでから1週間も経っていないし、なにか共通の趣味を見つけた訳でもない。ただひたすらに犯罪者を探すために協力しあった。アカサカは拳に応え、2人の中で友情が芽生えたのを感じた。
「空気呼吸器OK。行きましょう」
アカサカが扉を開け一酸化炭素まみれの部屋に入る。部屋の真ん中でブギーマンが倒れている。
「急ぐぞ。こいつの脳みそを義体化か電脳化させちまえば魔術を使えなくなる。ちゃんと生きた状態でムショにぶち込める……が、その前にやることがある。アカサカ」
「はい?」
「今回はお前の手柄だ。お前が体を張ってくれたおかげで捕まえられた。だからアカサカが手錠をかけな」
手錠を投げ渡す。少し間を置いてアカサカが頷くとブギーマンの方へと進んだ。
何か違和感がある。今何を見て違和感を持った?装着している空気呼吸器?アカサカ?手錠?倒れたブギーマン?……ブギーマン?わかった。違和感の正体!
「アカサカ待て!そいつさっきと微妙に位置が違う!まだ意識があるぞ!」
気づくのが遅かった。アカサカは既にブギーマンに捕まり頭を押さえつけられ動けなくなった。
「このっ……クソカス共が……!だがっ……油断したな……!」
ブギーマンは自分の体とアカサカを引きずりながら扉の方へと進む。俺の邪魔をすればアカサカの頭を吹き飛ばすとでも言いたげの表情だ。
「俺少し休憩する……!その後ハタケヤマを見つけてポリも全員殺す……!だが!お前は危険因子だ!今すぐガスマスクを外して死ね!」
「外すなシビミヤさん!あんたが死んだらこいつは誰にも止められない!本当に全員殺されるぞ!」
外すか外さないかなんて決まっている。
シビミヤはゆっくりマスクを外した。
マスクの下にあったのは、シビミヤの顔ではなくただの真っ黒な穴だけだった。
紫煙使いとは往々にして過去にトラウマを抱え、社会から爪弾きにされた者共である。中には自身の素性を隠し社会性を持ち非紫煙使いとして生きる者もいるが限界はある。
アウターオーサカでただただ穏やかな生活を遅れるものなど一人もいない。彼らにもいつか能力を使わざるを得ない状況が来るだろう。
怪しい者は常に監視しろ。いつその時が来るかは分からない。紫煙使いは犯罪者だ。どんな手段を使ってでも全員逮捕しろ。以上。
アウターオーサカ市警「紫煙使い逮捕に関する講演」より抜粋
「姉がいたんだ」
「」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:OSAKA_minami_2008_(3052698462).jpg
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