モノノケ・アッチムイテ・ヴァンパイア・アンドロメダ

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タイトル: モノノケ・アッチムイテ・ヴァンパイア・アンドロメダ
著者: ©︎EianSakashibaEianSakashiba
作成年: 2023


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突然だが質問だ。大丈夫、答えたからって呪いとか死ぬとかそういう罠の類じゃないから。

人1人監禁するにあたって、それなりの丈夫さを持ち非常に安価で手にでき周囲から怪しまれないような空間、そんな都合の良い牢獄は何か知っているか?

別に意地悪したい訳じゃないし正解言っちゃうか。答えは「車」。鍵もかかるし道端にぽつんと乗用車があっても、精々無断駐車だな程度にしか怪しまないじゃん?それが不法投棄された廃車の山にポツンと1つだけ、人が監禁されている車を置いたら尚更だよな。事情を知らなきゃ近寄ろうとすらしない。オマケにどうやら日本の自家用車というものはとても丈夫に作られた高品質ばかりらしい。窓ガラスだったら割れるかもしれないけど、まあ手錠なり縄なりで縛っておけばその可能性はグッと減る。全く企業努力様々だ。

わかっている。この理論は色々穴がある。まず牢獄というには水道もトイレも車には存在しない。更に車内に監禁されているということは牢獄の鍵は看守が持っているということ。エンジンをかけてエアコンを付けることすらできない。被監禁者の
気持ちを全く、全く考えていないバカのアイデアだ。この2日間嫌というほどその身にわからされた。監禁に車は向いていない。

「ええ〜?そんなノータリンのちょっと考えればロジックエラーがすぐ分かるような発想する人いるんですの〜?姫こわ〜い」と思った君、安心して欲しい。ここは君が知る日本国ではなく、本当なら日本は何百倍も治安は良いはずだ。次はロケーションの話をしようか。

ここはO/Oアウターオーサカと言う。どの宇宙からも切り離されて、土地神の怒りが神聖な廃棄物となって垂れ流され、空間の拡張を抑制する壁が無くなった結果治安の良さがマイナスにまで振り切った無法地帯。家に引きこもっていても死んじまうし、外を歩けば死ぬより酷い目に会う、そういう所だと思ってくれればいい。治安が悪ければそれだけバカも生きていける。このアイデアを考案した馬鹿野郎はなんとマフィアの幹部衆だ。学歴関係なく誰にでも等しく雇用と昇進の機会を、素晴らしきかなアウターオーサカ。

「はぁ〜…あ…」

いい加減虚空に独り言を呟くのも虚しくなってきた。俺の体は普通の人間より食事や水分補給を必要としなくても生きていけるけど、別のエネルギー補給手段を用いる必要がある。何日も監禁されたら流石に限界というものがある。

充電が5%になったスマリンのボイスメモを起動する。これは独り言ではない、誰かに届いて欲しいと言う意思をのせて喋る。

「あー、マイクテストマイクテスト…いいかな?」

「というわけでオォヨウ派に捕まって2日、貴女には随分ご迷惑と心労をお掛けしました。ごめんなさい」

「貴女が気に病む必要はありません、俺は貴女がマフィアの娘だからって差別をしたことはありません。まあ、俺自身がこう思っていても無意識に貴女へ遠慮するような行動をしていたらごめんなさい」

「流石にオォヨウ派のトップが自分の愛娘を殺すようなバカではない…とは思いたいですが、貴女はこれから俺を忘れて幸せな毎日、を…」

「…?」

さっきまで異常な蒸し暑さだった車内が急激に冷え始めているのに気付いたのはその時だった。録音停止のボタンを押す事を忘れて周囲を見渡そうとした時、俺の座っている助手席の後ろから何か引きずる音が聴こえたのだ。

「オイオイ…虫って大きさじゃなさそうだぞ…」

今まで知覚していなかった「何か」が自分の後ろにいる。その恐怖は計り知れないもので、ボロ車の中で辛うじてひび割れ程度で済んでいるバックミラーを通して恐る恐る確認する。

そこにいたのは、女だった。下を向いていた顔をゆっくりと正面に戻すと、まず明らかに異常な黒目が目に入る。次いで剥き出しになった溶けた歯、血だらけの髪、全体から漂う殺気。それらが車という閉鎖空間と合わさって俺の体から目一杯の恐怖を絞り出すのは十分だった。

「うおおおおおおおお!?」

拘束されている手と足をあらんかぎりの力で振り回す。もちろんこうすると外に出られるとか除霊できるとか、そういった打算はゼロの無意味な行動である。

「お、おい来るなよ!なんだお前、俺みたいになってここで死んでいった霊とかそういう感じ!?俺もそうなるの!?」

悲しいかな、何故世間一般の幽霊とは意思疎通が出来ないのだろう。この女も例に漏れず反応も返答もしないタイプだった。

「イヤー!!どうせほっといても死ぬのになんで今更こんな目にー!!というかそれ以前に死にたくないー!!」

女の推定幽霊はその手を前に、つまり俺を掴まんという意思と共に向けてゆっくりと迫ってきた。それが触れるか触れないかのうちに、俺の横にあった忌まわしい開かずのドアがあっさりと開いた。

「お〜い囚人、なんだお前メチャクチャに暴れやがって!外から見ても横転するかって所だったぞ」

「兄ちゃん兄ちゃん、オレ知ってるよ!死ぬ前の最後の足掻きってやつだ!静かにしてた方が苦しまずに眠ってイケるってのに、こうするやつはみんなバカなんだ!」

そのドアから現れたのは俺を捕らえたマフィア、オォヨウ派の一員であるゾキー兄弟であった。正直最期に見る顔が「おでき」塗れと「顔面ブラウン管」のこいつらにはしたくなかったが、俺は今明らかに動転しているのでしょうがない。

「う、う、後ろに、ゆ、幽霊、女の幽霊が…!」

「はあ?侵入者か!?…バカが!人間どころか虫1匹いねえよ!」

「オレ知ってるよ!幻覚ってやつだ!栄養が頭まで回らなくなったとか、極限?状態?とか、そういうのでコイツバカになってるんだ!」

「お〜よしよし何でも知っていて賢いなあ我が弟は、眼前にバカがいるとより際立つわ」

「兄ちゃ〜ん!」

最悪だ、なんで俺は潔く死のうと思った矢先にこんな劣悪環境に閉じ込めようと提案した張本人たちのイチャコラを見せられなければならんのだ。いくらアウターオーサカがこの世の地獄と言われようとも地獄の刑罰を生きてる内からやることはないだろうが。実際の地獄ってO/Oここみたいに「あとちょっとで死ぬんだし今から刑罰執行しても問題なし!」的どんぶり勘定が通常営業なの?

「なら賢い弟よ、このバカをどうすればいいかも分かるか?兄ちゃんに教えてくれ」

「オレ知ってるよ、ここまで来たらオレ達が殺しても問題ないって!」

「フフフ…そうだなあ弟よ、あの「星見蝙蝠」も、ここまで弱らせればオレ達でやれるよなあ!?」

あーあー結論を急ぎやがって、どうしようもないから封印して衰弱死させようとしたんだろ?返り討ちにあってもらうぜ…なんてキリッとしたキザなセリフは今言えない。肉体的疲労がピークかつ逃げ場のない車内だからだ。無言でゾキー兄弟を睨み返す。

「反抗的な目だなぁ。どうせ死ぬなら教えてやった方がいいかぁ?」

「何を、だよクソッタレ…」

「お嬢の行方だよ」

瞬間、俺の目はカッと見開いた。

「オレ知ってるよ!ここに来る前お嬢がドンと話してた事!そしてオレは、お嬢がきっと六頭体制ヘキサド社員の誰かに嫁ぐ事になったのも知ってるよ!」

「それは本当か?弟よ、本当ならばオレらオォヨウ派は安泰だなあ!」

「ともすれば政府の神経官僚ニューロジェントよりもヘキサドの会社員の方が資産?って奴がでかいのも知ってるし、ドンが持ってきた見合い話ならかなり上のポストであろうこともオレ知ってるよ、兄ちゃん!」

「いやぁ〜お嬢は結婚、一派は安泰、弟は賢い、そしてオレはそんな弟の兄だ。最後にこいつを殺せばみんなハッピーだなあ!」

2人の会話を俺はさっきとは違う、脱力しながら聞いていた。そうか、貴女は無事なのか。嘘でも本当でも俺は今から死ぬ。ならそれは俺にとっては事実だ。

俺自身さっきも言ってたろ、貴女はこれから俺を忘れて幸せな毎日を。きっとその言葉通りになる。この瞬間が俺の望みならば、足を止めていい瞬間なんだ。きっと。

きっとそうである、はずなのに。

「アッハッハ…いや〜ところで弟よ、お喋りなのは大変結構だが兄ちゃんはもう少しツバを飛ばさずにお前の話を聴きたいなあ。さっきからこっち側が濡れて敵わんよ」

「えっ、いやそれはオレ知らない…」

「えっ?」

俺とゾキー兄弟は目をパチクリさせて互いに見合わせる。兄貴の方を見やると真上からポタ、ポタと確かにひんやりとした水滴が垂れてきている。3人、打ち合わせなんてしていないのに同じスピードで上に顔を向ける。

そこにあったのは車内の風景ではなく、水面だった。そこから無数の触手がだらんと垂れ下がり、吸盤の中にびっしりと埋め込まれた目玉がもれなくこちらを見ている。集合恐怖症ではない人間でも正直ウっとなる量。

「ほら言ったじゃん!だから言ったじゃん!」

「ナニコレナニコレナニコレ知らない知らない!!」

「おおお落ち着け!まずは距離を取って遠距離攻撃じゃクソが!」

ゾキー兄が弟を後ろに下がらせて俺の処刑用だったサバイバルナイフを触手目掛けて投げた。絶対振り回した方がまだマシだと思う。

「いった!」

なんと予想外な事に触手は痛覚が存在しているかのような悲鳴を発し、ナイフが刺さった傷口から赤色の液体を垂らし始めた。なんでさっき俺の命乞いに反応しなかったのかとかそんな事は今はどうでもいい。

ゾキー兄にかかっていたような液体ではなく、生温かい。それでいて目が覚めるような赤、粘性を少し感じる床への広がり方、何より俺の嗅覚と味覚が告げている。これは、血だ。

たまらず俺は今持っている在らん限りの力を使って触手の傷口に吸い付く。「ひゃうん!?」という甲高い声が聞こえた気がしたが気にしない。こちとら人間の皮膚に歯を立てようとしたら逆にポッキリ行くくらいには衰弱しているのだ。なりふり構っていられない。

「そうだよなあ…!」

全身に力が漲る。頭が思考する余裕が出来る。

「に、兄ちゃん!アイツが!」

「しまった!」

「足を止めたとしても、腹は減るもんだよなあ!こんな簡単な事すっかり忘れてたぜ!」

傷口に刺さっていたサバイバルナイフは血を吸うときに邪魔だったので回収しておいた。それをそのまま兄の後ろから顔を出していた弟の顔面にダーツの要領でヒットさせる。義体改造で顔面を安いブラウン管テレビに変えられていたゾキー弟の顔面は砂嵐に覆われて車のすぐ横に倒れ込んだ。

「弟…?弟よ!どうし」

「ハイハイハイハイお前はこっちですよ!」

助手席の座席を倒し、ほぼ同時に余った片手で兄の方を車内へ引きずり込む。弟が倒れたショックでここの力比べは俺の方が勝ったがここからはこう上手くいかないだろう。男2人が助手席にぎゅうぎゅう詰め、車内の内壁は忌々しい対吸血鬼用祝福加工鉄ロザリオ・ホープレスで囲まれている。激しく暴れるとせっかくの力がまた吸い取られる、出来るだけ壁に触れないようにするには…

「んぐっ…!」

右腕で首に巻き付き、左手は相手の腕を手錠の要領で封じ込む。足は胴体にホールド。技名なんてない即興のお粗末な寝技だ。

「ハハ、ハハハハハ!バカかお前!?そうだバカだった!」

「何が」

「俺とパワー比べで勝てないから不意打ちをしたんだろ!?何が飛び出してくると思ったら「パワーが必要な」寝技じゃねえか!素人の見様見真似なんざ強引に溶けるわ!」

ゾキー兄の読みは当たっている。このまま続ければ力負けするのは俺、さらに体格からしてこいつは格闘技をやっているか、その手合いと何度も相手しているのだろう。こうなった時の対処法を知っている口ぶりだ。いや、知っているからこそテンプレートから外れた相手には弱いと確信していた。俺がなぜお前が動揺した時に一気にとどめを刺さなかったのか、そして

吸血鬼を前にして一瞬でも無防備に首筋を晒す行為に、一体何の意味があるのか。そこまでは頭が回らなくても当然だ。

「っ…!ァ、エァ…?」

血を吸った事により歯の強靭さが復活したのを隠していたこと、寝技に持ち込んだということは寝技でとどめを刺そうとしているという固定概念、何より生き血が欲しいからとどめを刺さなかったという理外の理由。

まあ、普通は全部たどり着けるわけないからな。お前はよくやった方だよ。

皮肉交じり100%に心の中で呟き、無心で血を吸う。この体にどれくらい入るのか容量体積の問題は気にしなくていい。吸えば吸うほど俺は強くなる。

「んっ、んっ、んっ…ふぅ~」

兄の体は文字通り血だけが抜かれていた。皮から骨が浮き出て、内臓を含めた肉と血管はその内側でカピカピになって崩壊するだろう。こちらも物理法則ガン無視の惨状、俺が限界まで血を吸えばこうなるから仕方ない。

「まっず」

一旦車内から降りて弟の方に駆け寄り胸ぐらを掴む。いくら時代錯誤な代物とはいえ義体施術を施した人間がナイフ刺さっただけで死ぬはずがないだろう。

「結婚の仲人は誰だ。オォヨウ派にヘキサドと繋がるようなパイプがあるとは思えないんだが?」

「知ら、ねえ…」

「予想でもいいから。義体の血は俺飲まないぞ、この意味分かる?」

「ま、マヨネーズの御仁だ…」

「…亡霊元帥「魔米津」か。胡散臭いと思ってたが何企んでる?」

「見た目は、同意する。でも中身は、いい人だろうがよ…」

「GOCすらほとんど消息を追えてねえ人型実体を何十人も懐柔している時点で個人が所持していい兵力を超えている。このままだとかつての都抗争よりとんでもない事になるんじゃねえのか」

「…ぅ…これ以上は、オレも知ら、ねえ、よ…」

「いやいや、1番知りたいことがあるんだけど。結局あれは何だったのよ?お前らが用意した車だろうがよ?」

「………」

「おい、おい..はぁ~あ」

義体だから大丈夫だろうと殴りながら質問をしていたら力尽きてしまった。まあしゃあないか。もうこの場を去りたかったが、これを対処しない限りは追いかけられて呪い殺されるともわからん。脳裏によぎるは、懐かしい声。

あなた吸血鬼の中でも相当お強いのだから、振る舞いも高貴にしていればいいのに。

少し深呼吸して、自分でも似合わないのが分かる声を作り、それっぽいセリフを言いながら振り返る。

「先ほどは血を吸ってしまいすまなかったね。私自身生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだ、どうか私に出来ることがあれば言ってくれ。特徴的なボディーの君、よ…」

車内には幽霊も怪物もいなかった。後部座席に座っていたのは女、だが最初とは違い、ピンクと黒を基調とした服装に短めのツインテール。丁寧に作られた「かわいさ」とは裏腹に、腕をラーメン屋の店員よりガッツリと組み、恥じらいもなく足をおっぴろげて座っているその態度から、もう既にお腹いっぱいになりそうなキャラの濃さを感じた。

「おうおうおう!物の怪の類の横っ腹に嚙みついてチュウチュウやるたあ相当にふてえ野郎だ!他人様の食い方と性癖にケチはつけたかねえが、もう少し忍耐ってもんをあんちゃんは知らなきゃなんねえなあ!」

想像の5倍は濃すぎて、ニンニクを食べていないのに胸焼けがしてきた。

「は..?え、なに、モノノケ…?」

「そぉともさ!」

女の子はそういうと腹をポンと叩いた。フリルでキュートな服の右脇腹にナイフで切られたような跡があり、鼠径部が見えそうなほどザックリ深く切り込んだ素肌から点状に並んだ2つの噛み跡が見える。

「我ら生まれも育ちも物の怪の類!映えや盛りを携えて、人間どもの驚く顔を見るためにちょっかいを出す傾奇者サァ!」

「十八番の変化術で度肝抜かした奴らは数知れず、フォロワーは10万人突破目前!動画チャンネルもそのぐらい登録してくれればいいんだけど世間様は甘くねえナア!」

「性は倫、名は弥琴!とりあえずは落とし前と服の弁償頼むわな、吸血鬼のあんちゃんヨオ!」

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