内容
穴蔵F組と別れた東国斎&丸山結組の別行動。序二話の廃墟へ独断再調査。
熊野調査の募集を管轄していたのがサイト-阿吽であることは、序三話の取引の中で羽倉・高辻が履行扱いにすると宣言したところで判明している。そのため、穴蔵に信仰喰らいの依頼を割り振って解散した後、個別に丸山・東国組に依頼を出した。
依頼内容
先日の穴蔵F組の依頼によって発覚した富多楽豊会へのスパイ。
高辻は、序三話での交渉の場において、姿は見えないものの斎の近くに丸山結がいることを知っていた。(報告では4人だったが、実際は5人でサイトを訪れていた。見えないし人じゃないから勘定しないでいいよねってこと)
丸山は穴蔵所属かつ、財団管理下のタグ(樹が肌身離さず着用しているネックレスタイプの呪符)を貸与された半収容実体であり、制御下にあることから擬似神格として富多楽豊会に取り入る目的で斎と共にスパイを依頼される。
依頼した表向きの理由は、富多楽豊会の活性化の兆候を感じ取ったため、内情調査用の派遣。
実際は穴蔵F組が発見した富多楽豊会員であるラーメン屋の店主が、超常実体の顕現を、半端に成功させていたことが判明したからである(ここでは書かないが、穴蔵F組の対応をしている斡旋業者は財団からの潜入員なので、本来の依頼主である富多楽豊会の他に、財団にも情報を流していた。)
道中、独断で序二話の廃墟を探索。地下に、破壊され尽くした空間(本来あったはずの壁が瓦礫と化してぶち抜かれているフロアと、何らかの装置群を発見。そしてそこに見合わないほど自然の洞穴と、こじんまりとした拝殿)を発見した以外にめぼしいものも見当たらず、その足で財団が睨んでいる富多楽豊会の蔓延した地域(未定)へ向かう。
村人などからの聞き込みで、よくない、またはよくわからない存在であるという噂を仕入れた東国斎は、その富多楽豊会員から勧誘を受ける。
書くべきは、田舎の排他感。謎の宗教団体。誰も彼もが気持ち悪いくらいに歓迎してくれる一部の村人。新興宗教的な妄信
富多楽豊会拠点に潜入。
なにやら昭和の一時期、会員の人数がだいぶ減った期間(サイト-81xx忘却に巻き込まれた会員たち)があったらしいことが判明。会員によれば、集団夜逃げとのこと。
丸山結の存在を検知して勧誘した富多楽豊会は、東国斎をかなりの高待遇で迎え入れる。しかし、「神格の存在を感知した」とは明言せず、あくまで利用してやろうと考えているため、東国斎には行きすぎたカルト感しか感じない。
富多楽豊会の教義、目的、なぜあなたを迎え入れたかを非常にカルト感満載で語り、東国斎が聞いたことは神の声として全て応える始末。
そのおかげで昭和〇〇年(サイト-81xx忘却年かつ、鈴木橙発見時の彼のスマホの刻んでいたカレンダーの日付)に会員がごっそり減ったこと、それを夜逃げだとしていること、神を顕現させて利益を得る自己利益集団であること等がわかる。
今回の丸山は、偵察任務であるとしながらも、富多楽豊会の人員に対して積極的に危害を加えようとする節が見える(こいつらが犯人であることは知っているから。)
個人的に危険を感じ、内部調査の任務は完遂できたため、夜逃げ。
依頼主へことの顛末を伝え、財団はそれを受けて緊急の用無しと判断する文面で締める。
富多楽豊会が穴蔵に、岡山の"何もない場所"の調査依頼を出した理由は、ラーメン屋の店主の独断専行を咎め、顕現に成功していた場合は、その神格を掠め取ろうと画策していたため
富多楽豊会の行動原理などの解明(説明パート)と、その方面から「サイト-81xxに何が起こったか」を暗に描写。
宗教しゅうきょう
「バレてたんですね」
「まぁ、君のネックレスは首にかかってたからね。君の連れている……あー、分類保留中だが、確か丸山結と言ったか。そのアノマリーはそのタグから大きく距離を取ることは難しい。どうせ部屋のどこかには居るものだと思ってた。歩き回りでもしていたのか?」
「いえ。あなた方の後ろで腕組んでましたね。指でツノ生やしたりして遊んでましたけど」
「……まぁそれは置いておこうか。で、だ。私が君に連絡を取ったのは他でもない。依頼をしたい」
東国斎とうごくいつきはスマホを耳と肩に挟み、肩掛けしたウェストポーチを前に回してメモ帳とペンを取り出した。「続きをどうぞ」と促すと、高辻祐たかつじたすくは止めていた語りを再開する。
「内容は、我々が注視している新興宗教団体の内情調査だ」
「内情調査?」
内心またか、と少し飽きの感情が頭をもたげた。最近小さい所を2箇所、道場破りの如く破壊したばかりである。
「数年間沈静化していたが、最近また活性化を始めている。その要因を探るのが今回の君の目的だ」
「潰す必要は?」
「ない。多方面に歪みが出るんでね」
「……了解です」
潰す方が単純でいいのだが、今回はいささか気を使う必要があるらしい。あまり自分好みの依頼ではない。そも内偵任務なら俺より敵人が腐るほどいる。
「ちなみにそちらのエージェントは?」
「いかんせん規模が全国分布してる奴らでね。こっちの顔が割れると面倒なんだ」
「つまりは……いえ、何でも」
使い捨ての駒の扱いはどこであっても変わらない。いい気分はしないが、雇用主に要らぬことを言う必要もない。
「私を選んだ理由は?」
「今回は君と言うよりも、君のパートナーに用がある」
「……丸山に、ですか」
「連中の掲げる大層なお題目が、神格実体の顕現と、その神格を崇めることで自身の願いを叶えるとか言う大層なものだ。荒唐無稽すぎて笑えるが、奴らは神格存在に関しては中途半端に認知している。こちらに片足を突っ込んでるばかりに、いつ一般社会に被害を及ぼすか分かったもんじゃないから増える前に潰す……とまぁ、そういう方針だ」
神格実体の顕現で願いを成就させたい宗教。今時、ド直球な私利私欲をここまで感じる宗教も珍しい。 所詮は生半可に超常に触れた宗教か。神を便利屋か何かと勘違いしているのだろう。現代の神社の弊害とでも言うべきかもしれない。今の日本は神頼みだけが一人歩きしている。
「丸山に何させる気ですか。こいつは神格になり得ませんよ」
「誤認させることはできる。あいつらは神気も霊気も見境なしだ。そもそもその判別自体ついていないらしい。簡単に騙れる」
確かに、この依頼に俺たちを抜擢するのは正しいかもしれない。実際に騙せるかは知らん。運だ。天下の財団様が言うんなら騙せるんだろう。
「期間は?」
「情報が掴めるか、身に危険が及ぶまでだ」
「……向かうべき場所と団体の名前は?」
「場所は広島県庄原。団体名は富多楽豊会」
「承った」
ヘッドライトを点灯する。つい数日前見たばかりの、少し滑り止めの捲れた階段を一歩一歩危なげなく降りる。
3階、4階、5階。徐々に地下に潜っていく。
どの部屋も、何も情報源になりうるものは認められなかった。地下1階の放置されたカレーやサンドイッチ、瓶詰めの酢物なんかもほぼ変化はないのを確認している。今はとにかく内部構造の把握と情報源の探索が目的であった。
「行きたいっていうから連れてきたけど、本当に良かったのかい」
後ろに続く丸山の声を聞きながら階段を降りる。
「どうせ数日後には財団が探索に入るんじゃないかねぇ」
「情報を握っておくことに越したことはねえよ。それに依頼の開始期日まではあと二日ある。間に合わせるさ」
そう返すと同時に地下6階の床を踏む。地下6階への階段は、今までの一階層の3倍ほどの長さを降下した感覚がある。これより下へ降りる階段は、少なくともここにはない。
踊り場を出る扉を押し開く。歪んでいるのか、静寂には大きすぎる引っ掻くような金属音でゆっくりと動いた。無理やり全開まで開い手から顔を上げる。
「また扉かよ……」
目の前には、古風な門が聳えていた。今までの近現代的な内装にはそぐわない扉だ。いつまでも門を睨んで突っ立っていても仕方がないと、門についた金属製の輪型の取手を引く。動かない。ならばと今度は押す。これまた動かない。まさかそんなことはあるまいと思いつつも横に引っ張る。当たり前だが動かない。
「ここまできて開かねえ扉とかマジかよ……おい丸山」
後ろでニコニコしているであろう丸山に呼びかける。反応はない。
「丸山?」
背後を振り返っても、そこにいるはずの丸山はそこにいない。ドアの向こうから物音がした。ついで奴ののんびりした声。
「ちょ〜っと待ってねぇ。今邪魔なもの片付けるからさぁ」
「……勝手にそっちに行くなよ。話が早くて助かる」
しばらく物音を聞きながら待機する。
ずずっ……という思いのほか重そうな音と共に門が動き、隙間から丸山が顔を出した。隙間をくぐり、残りを押し開いていく。いつも通り、何かあった時の逃走経路確保のためのクセだ。やる奴とやらない奴じゃ生存率が違うから、やらない理由はない。
門の後ろを覗く。何もない。下の方がカビっぽく黒に変色しているだけだ。
「丸山、お前何動かしたの」
ドアを堰き止めていたらしきものを認められず、丸山に問う。奴が目線を向けた方には、自然そのままの岩壁に立てかけられるように、数本の大きな石柱のようなものが聳えていた。
鳥居のパーツか。笠木かさぎ 鳥居の一番上に渡される横木 なのだろうか。無骨な円柱や角柱の中に、両端が滑らかに反り上がっているものが一つある。これが崩れて戸を塞いでいたということらしい。動かないわけだ。納得すると同時に、これを一人で片した丸山が末恐ろしくもあった。
なぜこいつは俺に素直に付き従っているのか。今聞いたところで、気分とはぐらかすであろうことは目に見えているが、反逆されたらなす術はない。この首から下げたネックレスが実際のところどの程度アテになるかなんて、誰にもわからない。
丸山と横並びに歩き出す。なんの手も加えられていないような洞穴。幅も高さもそれなりに存在し、二人並んでも余裕がある。
「ここはなんなんだ? 鳥居があったってことは神域なんだろうけど、あたりの空気感は全く変わらん気がするな」
「少しずつ濃くなってるよぉ」
「そうなのか」
足場が悪い。別に冠水しているとか、脆いとかそういうことではないが、とにかく平坦な場所が少ない。注意深く足元をヘッドライトで照らしつつ歩いていると、まさに行く先一寸は闇だ。なんでもないような顔をして歩く丸山には、この程度の不整地は支障がないらしい。消えてるもんな。クソが。
悪態をつきながら足を踏み出す。不意に辺りの黒が濃くなった。辺りを見回す。光が何かを捉えることはない。先ほどまであったはずの左右の壁は、振り向いた少し先で、薄らぼんやりと光に浮かび上がっている。どうやらここはある種の部屋のような、開けた構造になっているらしい。
「丸山、何かこの空間にあるか?」
「このまま正面」
質問に対し、丸山は袖を揺らしながら静かに前方に向けて腕をあげる。こいつの着物が白くて助かった。暗闇でも目立つ。「このまま行けるか?」という問いに対して「行けるよぉ」という緊張感のかけらも感じられない回答を聞き、再び歩き出した。
暗闇というのは最悪だ。人間は暗闇で、つまり周りの情報を獲得できない状況下において過度のストレスを常に受ける。その抑圧は正常な判断を鈍らせるし、視覚的にも安全な行動を取れる可能性は大きく下がる。そして何より、森林の中以上に方向感覚を失う。
「俺はまっすぐ進めてるか」
「僕が目になってあげてるんだ。曲がりようがないさぁ」
誇るような丸山の言葉に嘘はなく、しばらくして足元から前方へスライドさせたヘッドライトが何かに張り付いた。
「ただの岩壁じゃねえか……」
呟きながら近付く。しかし、その認識はすぐに改められる。
「なんだ。横穴墓おうけつぼ……か?」
ライトを左右に振る。合わせて壁面を走る円形の光輪で照らされた岩肌に、目の前に口を開ける横穴に似たものは他に見つけられない。この横穴はここだけだ。横穴はなかなかに大きく、縦横数メートルずつはありそうな大きさで口を開けている。ヘッドライトの角度を調整して奥を照らした。
先ほどから色に乏しい景色が続いたからか、異様に目につく毒々しい朱色。弾けたように散らばる木片。
そういえばこの廃墟自体、何か内側から爆発したような破壊のされ方をしていた。
これが引き金か。全く別のないかがあるのか。黄色く照らされるのは、奥に鎮座する巨おおきな岩。ただしそれは、見事に二つに割れている。
「縁起悪りぃなオイ」
「写真撮らなくていいのかい?」
促されるままにスマホを構えて数枚スマホで写真を記録しておく。数回のフラッシュと共に、カメラロールにデータがしっかり記録されていることを確認し、壁沿いに歩き出す。程なくして、何か金属製の台座や、機器のフレームのようなものが集積されたエリアに行き着くが、これもめぼしい成果は得られない。
それでも先ほどの横穴を中心に円状に配置されているらしきガラクタ群から推測するに、あの神道系に関わる横穴の巨岩を、観測する施設であったことは確かなようである。
「生存者も人の死体も数日前のあの一人だけか? 他は逃げおおせたのか、全員塵も残らず消えたのか……どっちにしろおっかねぇなココ」
「これ以上は面白いものも無さそうだよぉ、ここ」
辺りを見回していた丸山はそう言ってきた道を引き返してゆく。この場における命綱たる奴の白い袴の裾を必死に目で追った。
着々と階段を登る。地下に降りるごとに減っていった苔が徐々に増えていく。
この場所は色々と辻褄が合わない。間違いなく時空間的な特異点が発生している。さらには情報となるものがほとんど存在しない。瓦礫が溜まり、壁の黒ずんだ踊り場を回る。そうだ。人がいないと言うことはあり得ない。救出した鈴木某なにがしの存在もそうだが、このように不自然な瓦礫の溜まり ある種のバリケードを構築したような跡地、悉くまで隠滅された資料や情報、電気の止まった冷蔵庫の中の料理のその全てが、此処には少なくない人間が存在していたことを示している。ならなぜ鈴木以外は影も形もないんだ?
そもそも彼が羽倉栄に送ったメールも不明点しかない。10年前。本当に彼が10年前にメールを送ったとして、彼が此処で生活を営みでもしていない限り地下二階で気絶している理由はない。
「ちょっと」
先をゆく丸山を呼び止め、ちょうど差し掛かった地下二階の廊下に出る。最近新調したばかりの運動靴のゴムは、瓦礫で砂っぽい床でもしっかりとグリップを発揮している。
開け放たれたままの扉から中に入る。現田が鈴木を発見した部屋だ。当たり前だが、あの時と変わらない瓦礫の山。その奥に彼はいたそうだ。確かに、物陰に邪魔されて倒れている人間を見つけるのは難しいだろう。
「現田はお手柄だな」
瓦礫の裏を回る。ショルダーバッグのメッシュから軍手を抜き出して、両手に装着する。
倒された机やら、まだ無事な箪笥やらに手をかける。鍵のかかっている部分は、横に瓦礫のフレームを差し込んでこじ開けた。夢川が手慣れたようにやっていた手法。奴の空き巣スキルには感服するばかりだ。変なところで現田以上に脳筋になりやがる。どうせ本人は効率を重視しているだけとでも言うのだろう。
「丸山は」
物色を続けながらそこに佇む仕事仲間に話しかける。
「彼女らを勧誘したのは正しかったと思うか」
「う〜ん? そうだねぇ……斎はどう思ってるんだい?」
「勧誘したのはお前だろ……まぁ、そうだな……俺にはまだ分からない」
「分からないんだ?」
「あぁ」
確かに勧誘したのは丸山だった。だがあの時面倒ごとを避けて、たった齢13の女子2人を暗闇に引き込む行為に待ったをかけず、静観を決め込んだのは俺だ。フリーランスなんかをやってる奴らにマトモな出自の奴らなんぞほとんどいないが、それにしたって13はあまりに若すぎる。彼女たちが五体満足で今も過ごせているのは相当恵まれた部類だろう。せめて安全保障が少しでも存在する穴蔵にぶっ込んで、たまたま一般人の歓声を持つ斡旋業者に当たったのが良かっただけ。全て運が味方した結果。
無論、フリーランスは悪運good luckの強い奴の方が生き残るし成果を上げる。それは事実だ。その点であいつらは相当ツイているし、それは彼女らの経験に裏打ちされたものもあるのだろうが、だからと言って引き込むのを歓迎するのは 少なくとも一般人の感性からすれば 言語道断だろう。
「生憎と俺は親の腹ん中で駄々こねてた時から一般社会に生きてないんでね」
「ふぅん。斎、僕は君の出自に関して何も知らないんだけど」
「死ぬ前までに気が向いたら話してやる」
「人間はせいぜい80年で死んじゃうじゃあないか」
「……今世は気が向かねぇの」
最後の引き出しのカラを確認し、少し歪んだそれを力尽くに押し込む。ばちんと硬質な音を立てて閉まると同時に、軋むような音がした。
「斎、君の過去について、僕は大いに興味があるんだけどねぇ」
「そうかい。ならせいぜい焦らされといてくれ」
「だから、なるべく早くに私に話してくれることを願っているよ」
直前の俺の返しを聞いていなかったのか? 怪訝な顔を向ける。
「僕も君も、いつまで一緒にこの仕事をできるか分からないからねぇ」
「……お前は離れるつもりがあるのか? 離れる時はお前が死ぬか、俺が死んでお前が財団に収容される時だと思ってたんだが」
「死ぬ気はないけどね。何事にも運の尽きというものはあるからさぁ。別に君を祟って来世も憑いたっていいけど、それはあまりお勧めしないかなぁ」
文字数: 8800