御嶽に喰む
「何者なんですか貴女は」
どこかに目を背けるわけでもない。青年はただ真っ直ぐにそれを問う。
空のプレートを2セット挟み、相席に座る女は自らの両手の平を見つめた。
「不躾な質問で申し訳ないんですけど。結構重めに粉飾してらっしゃいますよね。両腕」
午後5時。6月某日。2021年。沖縄本島、那覇市。
那覇空港から徒歩数分圏内に位置する老舗のステーキハウスの片隅。2人と数名の店員を除き人影は無い。梅雨時にしては珍しいよく晴れた夕方の光が、やたら照明不足な店内に長く差し込んでいる。
「一つ目。俺は何者でもない」
中途半端に残っていた水を飲み干し、女は答えた。
「二つ目。両腕の化粧は傷を隠すためのモノだ」
スラックスとワイシャツで身を固めたオールバックの青年と、米軍の放出品とミリタリージャケットを羽織った長髪の女の間には、未だ異様な空気が滞留し続ける。
.
文字数: 855
ページリビジョン: 7, 最終更新: 11 Sep 2023 10:24