フリーランスtale
シーン1(起)
- 都会の路地裏にて。スーツ姿の男が煙草を吸いながら佇んでいる。男の目の前には"手の塊"としか形容出来ないような怪異の死体が存在している。
- スマホに1件のメールが届く。それに気付いた男はスマホを開いてメールボックスを確認する。要件は仕事の依頼で、事故物件の安全性を事前に確認するよう求めるものだった。
- 男は億劫そうにしながら依頼受諾メールを送信する。そうするとすぐにメールが返ってきた。そのメールによるとツーマンセルで仕事に当たるように、とのことだった。もう1人の依頼者との顔合わせをするために指定されたファミレスに向かえ、と指示を出される。
- 深いため息をつく男。がりがりと頭を掻きながら、煙草の吸い殻を怪異の死体に向けて投げ捨ててその場を立ち去る。
シーン2
- ファミレス内のテーブル席にて、2人の男が向き合うようにして座っている。注文したポテトをつまむ10代後半ほどの男に対して、スーツ姿の男が年齢と仕事に就いた理由を問いかける。
- 10代後半ほどの男が「19歳っす。仕事を引き受けた理由は……まあ金が欲しいからっすね」と答える。それに対してスーツ姿の男が「馬鹿なのか?」と問う。
- 「さあ、どうっすかね」と答える10代後半ほどの男。この後の会話で2人の名前がそれぞれ"杉山 伊織"(19)と"浅葱 永吉"(27)であることを開示する。
- 「まあ細かいことは置いておいて」と言って手を差し出す杉山。それに続けるように「よろしくお願いしますね、浅葱さん」と杉山が言う。浅葱は不満げな表情を浮かべている。
シーン3(承)
- 街中を杉山と浅葱が歩いている。杉山が「そういや浅葱さんはなんでこんな仕事を?」と問いかける。それに対して「これしかなかったんだよ」と浅葱が答える。杉山が不思議そうな顔をしながら「なるほど?」と返事をする。
- 「いずれ分かるようになる」と言う浅葱。杉山は「そういうもんなんすね」と言って棒付きキャンディの包装を向き、口の中に放り込んだ。杉山が舌先でキャンディを転がしていると、「お前こそなんでこの仕事を選んだ?」と浅葱から問いかけられる。
- 「言ったじゃないですか、小遣い稼ぎって」と言う杉山に対して「小遣い稼ぎならバイトでもすればいいだろ」と言う浅葱。「まあ……そうっすね」と含みのある呟きをする杉山。浅葱は疑問に思ったが追求することはなかった。
シーン4
- 目的の事故物件の前にやってきた杉山と浅葱。事故物件の外見について言及する杉山。緊張のせいか杉山の口数は減っている。そんな杉山に対して「事故物件についてどれくらい知ってる?」とシリアルバーを食べながら問う浅葱。「ほとんど知らない」と答える杉山。
- 事故物件について説明する浅葱。浅葱曰く「事故物件の大半は根も葉もない噂によるもの」だという。ただ中には本物も紛れ込んでおり、目の前の家がその"本物"にあたることを開示する。
- 装備として支給された物資を確認する。物資は聖別済リボルバーと護符数枚。ここで「霊が出たらすぐに逃げろ」と言う浅葱。「基本的に敵わないから戦うだけ無駄」と付け足して浅葱が残りのシリアルバーを口の中に放り込む。
- 「それじゃあ始めるか」と言って家の中に入っていく杉山と浅葱。空は薄暗く曇っていて、不気味な雰囲気を放っている。
シーン5(転)
- 家の中は薄暗くて不気味な雰囲気に包まれていた。備え付けの家具には埃が積もっている。お化け屋敷のような一軒家の中をスマホの明かりを頼りに進んでいく杉山と浅葱。
- 一階を探索し終えた2人は二階を探索するために階段を上っていた。その途中で「そういや何でここって事故物件になってるんすかね?」と問いかける杉山。「ただのボロい建物って感じなのに」という杉山に対して浅葱が「俺も詳しいことは知らされてねえが……少なくとも、ここは"ただの"ボロい建物じゃあねえ。確実に"いる"」と答える。
- "次の部屋で最後だけど気を抜くな"と浅葱が言いかけた時、扉が爆音を鳴らして破壊される。目の前に立ち込めた粉塵が視界を制限する。浅葱の安否確認をしようとする杉山。その目の前には長髪の女性実体が立っていた。それを見て直感的に目の前の実体が"霊体"であることを悟る杉山。
- 杉山の後ろの方で何かが崩れる音がする。音の正体を確認しようとして杉山が振り返る。そこには吐血した状態で気を失っている浅葱の姿があった。驚きのあまり思考がフリーズする杉山と、その顔面に向かって振り下ろされる霊体の拳。ふと気付いて防御しようとするも時すでに遅く、杉山は顔面で霊体の拳を喰らってしまう。
- 殴られたことで一階まで吹き飛ばされた杉山。自分の死を悟ると同時に"霊に遭遇したら逃げろ"という浅葱の忠告が脳内を駆け巡る。忠告を脳内で反芻しながら思考する杉山。"ここで逃げてしまったら浅葱が確実に死んでしまうこと"及び"ダメージ的にすぐに逃走姿勢がとれないこと"を理解する。
- 直後、霊体が杉山目掛けて飛びかかる。咄嗟に身体を転がして飛びかかりを回避する杉山。急いで聖別済リボルバーを取り出し、霊体に向けて発砲する。身を翻して銃弾を回避する霊体。その伱に霊体との距離をとる杉山。
- 杉山が自身の手の内を確認する。護符数枚に残弾数2発の聖別済リボルバーという限られた物資で現状を打開する方法を模索する。そうして模索している杉山の腹部に一発拳が叩き込まれる。それを喰らって後方に吹き飛ばされる杉山。肋が数本折れてしまったことと同時に、これ以上の攻撃を受けると即死することを理解する杉山。
- ポルターガイストによって後ろから杉山目掛けて包丁が飛んでくる。ぎりぎりで杉山が回避する。包丁の刃が杉山の頬を掠める。続いて連続で投げかけられた包丁を身を転がすことで回避する杉山。ドン、という大きな音と共に包丁が床に突き刺さる。
- "助かるためには霊体を無力化するしかない"という考えに至った杉山。霊体の攻撃を回避しながら勝利への筋道を模索する杉山。そうして回避していく中で、杉山の脳内にある考えが浮かび上がる。その考えとは"護符でスタンさせた伱に聖別済リボルバーの弾丸を打ち込む"というもの。
- 現状の手札を考えたうえで取ることが出来る選択肢はこれだけであり、更にこれをミスったら死が確定することを理解する杉山。霊体の攻撃を避けながら護符を展開するタイミングを見計らう。そうして攻撃の伱をついて霊体に接近し護符を展開する。護符は光の輪に変わって霊体の動きを抑制した。
- 聖別済リボルバーを霊体の眉間に向かって突きつけ、すぐさま3発発砲する杉山。乾いた銃声が一軒家の中に響いた。
シーン6(結)
- 事故物件の調査から数日が経ったある日の午前10時。杉山と浅葱は公園のベンチに座って話をしていた。杉山は左脚に、浅葱は右腕にギプスを巻いている。左手で煙草を吸いながら浅葱が「それにしてもよくやったもんだよ」と言う。
- 聖別済リボルバーの発砲後、一時的に霊体が無力化したタイミングで浅葱を引き摺って杉山は家から脱出していた。脱出後は穴倉バイト協会に連絡して応援が来るのを待っていたという。そうしてやって来た応援に保護される形で杉山と浅葱は仕事を終えた。仕事自体は達成したため報酬はちゃんと払われたことを描写。
- 「ああしなきゃ死ぬのは分かってたんで」と答える杉山。それに対して「俺を置いていけば確実に助かってたろ」と指摘する浅葱。それに続ける形で「なんで俺を助けた?」と問いかける浅葱。それに対して杉山は「人死んだあとに金貰ったって嬉しくないっすから」と答える。浅葱は小さく笑って「やっぱお前馬鹿だよな」と言い放った。
- 杉山が「馬鹿でもいいでしょ、助かったんだから」と言って缶ジュースに口をつける。浅葱は「それもそうだな」と言って煙を吐き出す。そうして少しの沈黙が訪れる。その沈黙を破るようにして浅葱が「……お前、この後はどうするんだ」と問いかける。それに対して杉山は「うーん……仕事は続けますよ。金ないと困っちまうんで」と答える。
- それを聞いた浅葱は「奇遇だな、俺もだよ」と返す。それに続けるようにして「迷惑かけた分、ちゃんと落とし前はつけねえとな」と言って煙草を再び咥えた。杉山が「浅葱さんも馬鹿じゃないっすか」と言うと、浅葱は「そうかもしれねえな」と言って煙を吐き出した。吐き出された煙は晴空へと消えていった
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