幕間:深淵を一瞥せよ(Look down abyssal area)

・一般人がハンターの闇市に行く話
・短編にするよ 具体的には4000字未満


地下市場は喧騒に満ちていた。薄暗い明りの下、海水滴る潜水服を着た売り手と顔のほとんどを隠した買い手が指を折り曲げ攻防する。

「"異鯨鰭"4つ詰め合わせ纏めて10万から!……11万、14万……はい14万だよ!まいどありがとね!」

「"シーカー"の頭部外皮、"シーカー"の頭部外皮~安いよ、固いよ、鋭いよ~……はぁ、やっぱ商品の印象が悪いかなぁ……」

「ピークォッドの第三探索隊が全滅した"呪われた海域"エリア・トリトン、われらチームはその海域に降り立ち、命からがら幾つかの”深淵体"を回収した!第一スポットは"カサノヨダカ"の根城、断層から湧き出てくる子機の精神汚染を何とか搔い潜り、遥か大航海時代の沈没船を発見……あ?先に商品の紹介をしろだァ?うるせェ、ちっとは語らせろや!こちとら命張った"ハンター"ぞ!」

場末の雑誌記者として安月給でこき使われていた私は、これまた場末の芸能事務所に所属する落ち目の元人気芸人のスキャンダルを追いかけていた。ターゲットは人目を隠すように、幾重もの変装をし、路地裏や、時には廃墟の中を経て密やかに進んでいた。そして、ターゲットが入り込んでいった場所がここだった。初めは戸惑った。なぜこんな潮臭い、普通の市場に、あれだけ変装して向かうのか。しかし、今の私は知っている。この場所は普通ではない、というよりも、"正常ではない"。

「見よ、このオルゴールこそが今回私の出品する"深淵体"!ハンドルを回して奏でるは陳腐な音などではなく、宙に映る星々の慟哭!この星辰は私たちに何を伝える?何故深海の産物が遠き星々を映す?深海と宇宙の同一性の暗示?ああ、この収まらぬ好奇心を満たす若き哲学の徒よ、その真実を解き明かしたくはないか!?「」

「レイメイオトシゴの火葬で出た聖灰だよ~。水に溶けないよ~。ケートス避けになるよ~。ハンターの方、お守り気分で買ってみて~。1g、1万円からだよ~」

「幻の"先史海域"、そこから見つけたオフタルモサウルスの幼体!まだギリギリ生きてる……無論研究材料としての価値は無限大!きっとね、さぁ買った買った!」

物理法則に到底当てはまっているとは思えない骨董品様の品々、正気を失いそうになる異形の生物群、遙か昔に絶滅したはずの生物が目の前で泳ぎ回っている様。私が今まで知っていた正常性はここにはなく、ただ異常のみが充満している。

「なあそこの兄ちゃん。ここは初めてか?迷子なら案内するぜ?」

突然、後方から声が聞こえた。慌てて顔を上げると、そこには私が先ほどまで追っていた男の顔。

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