Alone-S: 03
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「──だから、正面出入り口に迎撃用にコの字型陣形を組む。左右の陣にはお前たちフリーランスを」
「この配置だと両翼でブルーオンブルーが発生しかねません」
「何だそれは」
「味方同士の誤射被害です」

メガネのズレを直して作戦担当大臣に向き直る。ウンコ臭い口臭のハゲがあからさまに嫌そうな顔でこちらを睨みつけていた。ローブの下にVz61サブマシンガンをみっともなくぶら下げたまま黙り込んでいる。

川崎市内に存在する貸倉庫の一棟。クライアントが拠点として徴用している施設の1つであり、最大で20人程度が寝食を共にできるようひそかに改造された秘密基地らしい。フロント企業としての体を装うための「1階広間」は運輸倉庫としての機能を保っており、同時に2階より上にある指揮系統を守るための緩衝層としても、儀式を行うためのエリアとしても、今回のような簡易防衛線の構築にも使用可能だった。フリーランスとクライアントの混成部隊が集まってもそれなりの余裕を残せる程度に広い。

「……内ゲバで同士討ちなんて一番馬鹿馬鹿しいでしょう。防衛線を張るにしてもやり方があります」
「内ゲバではない。教団の異端因子である浅田一派の襲撃阻止と誅殺こそが我々とお前たちの使命だ」
「内ゲバじゃないですか」
「宿なしのフリーランス如きが知った風な口を利くな。良いか?」

「“鉄錆の果実教団”存続の分水嶺は、今夜だ。関東方面支局の実権を手にするためには何としてでも奴らを打ち倒す必要がある」と、ハゲは僕らフリーランスではなく教団の面々に向き直って叫んだ。薄汚く汚れた白ローブを纏う教団員15名余りが吠える。一応近くに人口密集地があるというのに呑気な連中だ。僕は僕で他のフリーランス連中に目配せする。無関心の者。状況をせせら笑っている者。語らずして「やめとけ」という威圧を放ち続ける者。

少なくとも全員が自分よりも歴の長い非公認フリーランスだ。僕以上にあのハゲを止められる奴は他にいくらでもいるだろう。教団員の雄叫びに紛れて小声で叫んだ。

「不味くないですかアレ……」
「知らん」
「自分で考えて生きられないクチか?」
「不在人員多数のブリーフィングでマジレスは寒いべ」

色々言い返したいことはあるけど最後の意見だけは本当にごもっともだ。午後には追加で8人のフリーランスが到着する。日没後の迎撃前に十分なブリーフィングの時間を設けられることは確実だろうし、何より不在人員がこれだけいる状態で作戦手順の理解を勝手に深めても連携に支障が出かねない。では何のために今の段階で会議を?

「……別の目的で会議してたってことですか?」
「だから知らん。黙れ。俺らに聞くな。口閉じてろ素人」
「はい」
「閉じろってんだよ殺すぞ」

ハゲがそこまで考えてやっているかは知らないが、この作戦会議はクライアント側の指揮向上を測るためのデモンストレーションとして効果を発揮している。迂闊に意見を挟むのはむしろ逆効果だった可能性も高い。そうであった場合、というか意図の有無に関わらずさっきの僕は割とマイナスな行動に走ってしまったような。

教団員たちがある程度落ち着き始めた頃、ハゲはようやく僕らに向き直って「作戦会議」を再開した。

「……フリーランスの面々もよろしいか」
「概ねよろしいが、作戦立案の詳細について後で俺と弟も噛ませてほしい。実戦経験に関しちゃアンタらよりも多少は積み重ねているし、金で雇われている以上は相応の働きをしないとな」
「我々の行使する超常についても情報共有しておきたいんで自分も賛成です」
「頼もしい限りだ。では終了後に改めて副大臣らと」

「ああ、そういう……」と、小さく呟いて関心してしまった。残念ながらその関心を言語化するほどの能力を持ち合わせていない為それ以上は言葉に出来なかったし、呟いた数秒後に口を閉じていなければならないことを思い出したし、一々そんな脅しに付き合っている自分がここにきて心底情けなくなるだけだった。


柳葉太一。“他称”異世界人で記憶喪失でADHDで無職の21歳。方舟のメンバーとはぐれて半年くらい。お金が無い為フリーランス課業で食い繋いでます。助けてください。




午後1時。先の無駄口が効いたせいか案の定誰からも話しかけられないまま隅っこに座り込んでいる。支給されたのり弁の空容器を捨てに行けずに握り込んでいた。

しかしそれにしたって広い。

「隣良いですか」

顔を上げる。赤毛の混じった髪の毛をフードで覆い隠した、自分より一回り下と思わしき年頃の少女がこちらを覗き込んでいた。身なりからして教団員の者だろう。青年は訝し気に首をかしげる。

「隣」
「ああ」
「いいですか。お兄さん」
「はい。お兄さん……?」

腰を退けて一席分の空きを作る。少女はローブに付着した糸くずを叩いて落とした後、落ち着いた様子でそこに座った。身長の割に若干座高が低い。

「隣良かったですか」
「良かったですけど、君は」
「ただの教団員です、よ」
「……?」
「今のうちに誰かと話しとこうかなってね」

反射的にメガネの位置を正す。年下(推定)の少女と目を合わせる元気もコミュ力も無いため、自分の爪先を見つめながら一呼吸置いた。少女は少女で天井の片隅を見つめている。目を合わせなくても会話可能な人だ。助かる。

「フリーランスの人なんだよね?」
「今は。多分」
「?」
「多分、信じて貰えないんですけどね」
「うんうん」

「大変じゃん。記憶喪失と異世界漂流ってダブルパンチして良いもんなんだ」
「良くはないでしょ」
「良くはないか」

「物心ついたころからずっと教団員だったからねえ。毎年色んなとこで壊滅してるけど、こう見えても結構老舗なんだよ。ウチの宗教って」
「あんまり内容を存じ上げないんですけど、実際どんな教義でやってらっしゃるんですか?」
「入信したら教えてあげる」
「あー」

無自覚に間抜け面を晒したせいかケラケラ笑われてしまった。




「浅田だ!」

言い終えた瞬間だった。副大臣の頭部がよく解らない形状に歪んだ後、紙吹雪をバラまく格好で勢いよく爆ぜる。

別にこの世界で目覚めて以降、理不尽な形で人が死ぬところなんていくらでも見てきた筈だった。奇妙なことに自分の手足が動かない。

「敵襲!超常攻撃!!正面出入り口!!!」

声が出せない。例の屈強なフリーランスが叫ぶ。教団員が慌てふためきながら銃を手に取る。ハゲがサブマシンガン片手に大声で指示を出す。決戦が近い。超常的な攻撃で先手を取られたせいか全体的に皆の指揮が低い。動けない。あの開閉扉の向こう側に浅田一派が、少なくとも人間の頭を破裂させる超常を帯びて待機している。

最前線のバリケードに配置した屈強さんが全員の動向に素早く目をくれる。途中でぼくとも目を合わせたが心底嫌そうな顔をあっという間に背けただけで、更にデカい声で仲間全員に告げた。

「副大臣を自信満々に殺した時点で、この奇襲は奇襲ですらなくなった!恐れるな!扉が開いた瞬間顔を出せ!目に付いた人間に知らない顔が乗っかっていたら遠慮なく引き金を引け!超常を行使しろ!」
「聞いての通りだ同志諸君!!行くぞ!!」

手足の感覚が戻る。戻った瞬間がむしゃらに走っていた。とりあえず近場のバリケードに飛び込む。先客のフリーランスが2人。1人は午後から来た全身黒ジャージのナヨナヨしている女の子、もう1人は午前のブリーフィングで僕に暴言を浴びせてきた人の1人。早速凄い嫌な顔されてる。

「持ち場ここじゃないだろお前」
「どっ、ど、どこですか!?ここ!」
「死んじまえよお前」

余りに直球過ぎる罵倒に頭の中を焼き尽くされる。暗い倉庫の中で真っ白になった。この人今から殺し合う癖に味方の僕に死ねと言ったのか?この人は。

違うよな。違うんだ。言わせたのは僕だ。経験の足りない領域に片足を突っ込んで素人考えでやみくもに行動した結果、本業が始まる前から著しく信頼を欠いたのは他でもない僕だ。次に活かそう。次って何時だ?次って──

「死ねよマジで。俺が殺されかねないから」
「死ねない。死にたくないです」
「じゃあ銃と弾倉全部出せ」

言うとおりにしないと殺されるというか、殺される前に僕が死ぬ。その予感だけを何となく察して、思考が追い付かないまま腰をまさぐり、3ヶ月かけてようやく購入したP230-JPと予備弾倉4本を膝元に置いた。ふとフレームに刻印されたシグザウエル社のロゴマークに目が行く。曇り1つ無い素敵な銃。そういえば分解清掃とか少しもやったこと無かったけど、この銃って結局何のために買ったんだっけ。

そもそも僕に必要なものだったのかな。

「失せろ。あーフタツキさん?」
「あ、わた、私、ですか?」
「予備弾無しの38口径5連発リボルバーよりいくらかマシだから。ソイツは俺が預かっておこう」
「えと……ではこちらお使いください」
「セーフティは?」
「これは無いモデルでして、えと、あの、あ、残弾実はあと10発あるんですけど」
「貰っていい?」
「トリガープルがとても長いので気を付けて……」

得体の知れない美少女と僕にだけ語気が強い青年が颯爽と銃を手渡し合っている。もはや完全に蚊帳の外だった。膝の先10と数センチ挟んだ向こう側で初対面のフリーランスが円滑なコミュニケーションに及んでいる。

殺し合いだ。自分の元居た世界について何も知らないままついにこんな野蛮行為にまで巻き込まれている。殺し合いが始まる。何で



ありがとう。最後に人間を教えてくれて。

どれだけ無意味で、どこまで行っても独りぼっちだったとしても、誰かと共に生きた記憶が欲しかったの。これは私の我儘。


血溜まりに移り込んだのは微塵も濡れていない白髪の、ツインテールの、やけに見覚えのあるアニメ面の美少女だった。

美少女が、僕の挙動をしていた。

「何だコレ」

アニメ面が紅く歪む。その醜く歪んだ口元を塞いでしまおうとでも思ったのか、今度は慌ててかざした両手の白が僕の呼吸を奪った。奪ったというより「呼吸せずに生きている自分」を始めて認識させてくれた。僕は今呼吸せずに生きている。脈拍が無い状態で体を動かしている。

身体に、輪郭線が宿っている。どの角度でどう見つめても黒い細線がリアルタイムで体の輪郭を形成している。まるでこの世界に無理矢理書き起こされたかのように。

例のハゲは武器も持たずに俯せのまま死んでいた。後頭部に一発の弾痕。見慣れない遺体と見たくない傷跡が胸腔を蝕んでいるような感覚を産むも、その痛みはどこか現実味が無くて、まるで自分の体が人間じゃなくなったような気すらする。

「……何だコレ」

[加筆]

「それが君の正体だよ。Bataichi0612に合致するユーザーネームは存在しません

両腕の無い天使がケラケラと笑った。それほどまでにさっきの美少女フェイスを歪ませているらしい。

「……僕がバタイチ0612だとするなら、アンタは何なんだ、“腕無し”」
「“腕無しカイナレス”で合ってるよ。早速で悪いけどちょっとした契約の話をしたい」

「なんてことはない。未承認フリーランスを取り巻く現況の打破にちょっとだけ貢献して欲しいってだけさ」
「ただの文字書きですよ僕は。そもそも僕の書いていた“SCP財団”とこの世界は相関性や帰属関係が無い。物語改変みたいな真似は出来ません」
「構わないよ」

── 03 ──

ANOTHER-E


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