» ラフコンセプト (タイムライン)
Timeline I.
1968年 | コードトーカーの機密解除
太平洋戦争およびその戦線において暗号通信に大きく貢献したコードトーカーは、1968年に機密解除され、その真相が公に明らかになることとなる。同時期、財団のCICaDA部門は複数の理由から"コードトーカー"のような特異な部局の構成が急務であると判断し、これを陸軍参謀総長に連絡する。
CICaDAは、太平洋戦線で使用されたコードトーカーを評価しており、少数のコミュニティで構成される暗号通信兵、彼らに言わせれば「堅牢な言語話者」であるコードトーカーを、財団の価値ある研究目的のために転用し、その存在を可能な限り秘匿できないかと要請した。しかし、陸軍はこれを拒否し、戦争の終結や米国の歴史的認識を国内外に誇示するという目的のために、コードトーカーの機密を解除した。
機密情報検閲・文書保管部門 (Confidential Information Censorship and Document Archiving Division)
インディアン諸語の研究の活発化や、前述の機密解除に伴い、CICaDAはコードトーカーを転用する事に失敗した。ナバホ語は解析不能なものではなく、加えてWW2以前にナチスが30名ほどの人類学者をアメリカ国内に派遣したことで、コードトーカーは技術的にも遅れた、暗号通信技術の廃棄物と化した。
Timeline II.
1969年 | 暗号言語の開発
CICaDAが陸軍の説得に失敗して以来、代替となるセキュリティプロトコルの確立には更なる時間を要することとなった。潜在的にも多数の情報が外部に取得されているという危険性を理解していながらも、同様に文書を破壊することへの不可逆性を認知していたため、問題の解決に踏み切ることは無かった。
一方で、財団のミーム学者であるキャロル・ラオ博士は、サイト-43 (カノン: オンガード43) の歴史的評論グループ「CLIO-4 (SCP-5382) 」の活動実績に倣い、ナバホ族を中心とした複雑な言語がもつ文化的制御機構の側面について調査を始めた。その結果、ナバホ語がもつ軟口蓋音や鼻音、膠着語としての複雑性などは、ミーム学的に固有の文化的抵抗の特徴であり、ナバホ語は対外的なミーム要素からの自然な防御として機能していることが明らかとなった。
ナバホ族のような先住民が持つ言語は、外部からのミームに対して一種の障壁として機能している。外来のミーム (即ち思想、文化、言語、技術) は会話や流行、伝道、宗教などによって侵入を行うものだが、言語が複雑で特殊な構造を有するほど、その言語の理解には時間を要することとなり、結果として外来のミームが浸透することが難しくなる。そのため、ナバホ語の複雑性は、自らの言語と文化的特性を保護する機能を有していると考えることが可能である。
このような特性から、ラオ博士は「言語的に特殊で、かつ文化的に閉じた集団」が、外来のミームに対し言語的な戦術を用いてその影響を最小限に抑え、また排除する傾向を推測した。これを暗号言語モデルと提唱し、「外来のミームの浸透を防ぎ、また理解を妨げることにより情報の略奪を防ぐ言語」の存在が財団にとって有用であることを発見した。
Timeline III.
1972年 | ミームベクターの着想
複雑な言語による多重暗号化のプロセスは、ミーム学の分野で更なる注目を集めた。また、1970年初頭に発表された自然意味論的メタ言語の理論 (NSM理論) は、生得的な言語 (セマンティック・プライム) の普遍性を導出したことで、財団内における新たな研究の活性化に間接的に寄与した。
セマンティック・プライム (semantic primes)
全ての言語に共通し、同じ意味を有する、翻訳可能な意味の最小単位である。セマンティック・プライムは普遍的な「概念」の中核を意味する語彙であり、その基本要素は1972年時点で以下のようなものに分類できると主張されてきた。
- 名詞 (I, you, someone, people)
- 限定詞 (this, that)
- 数量詞 (one, two, some)
- 空間 (here, there)
- 時間 (now, before, after)
- 過去 (a long time ago, a short time ago)
- 論理的概念 (maybe)
- 動詞 (do, be)
- 物理的動作 (move)
- 感覚的な述語 (see, hear)
- 言葉・思考に関する動詞 (say, think)
- 感情・欲求 (feel, want)
- 認識 (like, know)
- 否定 (not)
ラオ博士の指揮下で「ミームベクター」の大まかな初期構想がこの時点で完成し、その実践的なプログラムとしてミームエージェントの開発が開始された; ミームベクターの大まかなコンセプトはこの時点で定まっている。即ち、セマンティック・プライムをメタ言語として利用する人間の認知プロセスに妨害を加え、イメージスキーマを循環させ破壊することで作用するものである。
「収容」イメージスキーマの例。
人間のセマンティック・プライムは生得的であり、イメージスキーマは経験的に獲得する。イメージスキーマはメタ言語の詳述を抽象化したものであり、それ単体は「イメージ」というよりも集積である。あらゆるデータをスキーマに投射することで、既知と組み合わせて情報を読み取ることができる。
この条件を前提にすると、全てのイメージスキーマは「I-言語 (内言語) 」の知識体系に基づいている必要があり、核となる知識体系が不十分なスキーマを理解することはできないということになる。だが仮に、この前言語的な知識体系に「循環する概念的領域」が含まれていれば、投射に不正が発生し、イメージスキーマを内言語によって詳述することが出来なくなる。
「再帰」のイメージスキーマは最も単純な投射の循環であり、同じイメージスキーマを参照し続けるという意味で循環している。ただしこれは正常な範囲で、我々は「再帰」という言葉の意味を理解している。そうではなく、例えばθ′ (Tale: SCP-SCP-033) のような記号のイメージスキーマは循環的であり、なおかつ理解不可能なもので、これを正常に知覚しようとすることはできない。
ミームベクターは、そのような再帰的性質を有するイメージスキーマを呼び出し、人間を誘引する。シータ・プライムのような異常なイメージスキーマのエッセンスがあれば、呼び出しにより人間を殺害することも不可能ではない。これがミームエージェント/ミーム殺害エージェントとなる。
ミームベクター (memetic vector)
一般的には「フラクタル画像」で構成された攻撃的な画像媒体を指す。ミームベクターは、それ自体が有する再帰的性質に加え、人間を誘引し、その人間の致死性の高い記憶を捕食する性質を有する「ミーム殺害エージェント」に分割することができる。後者のエージェントは、主に情報の消費を伴う生物学的アルゴリズムである情報食 (SCP-8976) によって成立している。
情報食者は、人間の記憶の最も関心高い部分を標的として捕食する性質を有する。ミーム殺害エージェントなどの固有のベクターは、情報食者の攻撃を受けた複雑なメディアをベースとして設計され、その攻撃性は情報食者の積極性、伝播性、複製性のレベルに応じて変動する。
逆に、ミームベクターの性質は「情報インデックス」としても利用することが可能である。イメージスキーマ、換言すると「個々の人間によって内的に見出された、物事に対する共通的な情報」は、それ自体は抽象的で僅かな情報にしかならない。しかし、ひとたび人間によって想起されると、その人間はイメージスキーマを理解するために、内言語を用いてスキーマの詳述に取り掛かる。つまり、イメージスキーマが持つ本来の意味について想像する。
これにより、人間は記憶上に存在する長大な (特定の) 文脈をイメージスキーマに応じて呼び出し、表面上「思い出す」という事が可能になる。ある意味、これは複雑な多重暗号化の応用であり、既知の長大な文脈を簡潔な単語によって伝達・共有・想起することを可能とするものでもある。
この実験を本体とする専門の財団内部部門として、この年に不在部門が設立される。不在部門の存在は公的には秘匿され、その存在自体は監督者 (キャロル・ラオが着任) によって管理されることとなる。
Timeline IV.
1975年 | 重要なミームベクターの初期設計
不在部門は、こうしたミームベクターの開発の途中である事実に気づく。イメージスキーマの呼び出しは無意識下で行われ、表面上の意識的な活動に関係しない。経験的に行われる前言語的な活動である。つまり、特定の・不特定多数の対象に何らかのテキストを認識させ、それらの共通項をイメージスキーマとして定着させると、常にそのミームベクターの呼び出しに対応するようになる。
これはある種のマインドコントロールとしても見ることができる。実際、監督司令部は「ミームベクター」の研究に関心を持ち、このモデルの実用化が可能ならば、財団の指揮系統をより増強することも不可能ではないと考えていた。それが実現可能だったからだ。不在部門は、CICaDAに提供したものとは別に、「強制的に標的の忠誠心を向上させ、恐怖心を抑制する」一連の長大なフレーバーテキストの作成に取り掛かった。その結果として構築されたのは、D-001として知られるところの不在の実体である。
しかし、不在部門は研究途中で深刻な問題に直面した。即ち、認知的不協和によるミームベクターの解消という問題である。標的がキーワードを認識することによって直ちに長大なテキストを投射する、それに従属するというのがミームベクターの構造だが、誤ってこのキーワードの意味を真の意味で翻訳・理解してしまうと、ミームベクター自体の共通項の認識が希薄化し、長大なテキストの集約された記憶を徐々に失っていってしまう1。
テキストは全体で完成しているため、一部でも損失すれば影響は失われる。これは、忠誠度の極端な低下やストレス、恐怖感情の発生といった問題を引き起こす。極度の環境に長く置かれた人物ほど、この損失による反発は大きくなり、最悪の場合は死に至る。この問題を発見した不在部門は、ミームベクターを運用すべきではないと監督司令部に進言する。しかし、ベクターの効果は自明であり、既に回復不能な段階までベクターは財団中に流布されていた。
事態が手遅れな段階まで進行してしまったため、不在部門は1975年までに「カタラクト計画」を潜在的に進行させ、キャロル・ラオ局長を中心に独自の活動を開始する。
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